夜明けのウェナン

遠野イナバ

1 ことの始まりは…

 ──いつか、この国を背負う立派な王になってね。


 美しい人だった。

 強くて、凛としていて。

 帝国との戦いにも臆さず剣を振るう姿は、まさに戦場の巫女さながらだった。

 姉さんが捕まった。


 ──あなたは逃げなさい。ここはわたくしが食い止めます。


 そう言った姉さんは、まっすぐ走って敵に斬りこみ、そして捕まった。

 それが最後に見た、オレの大好きなイーファ姉さんの姿だった。



「どうしてダメなんだ!」


 オレは大祭司だいさいしに詰め寄った。

 てらてらの額にぺったりと張りつく白髪。

 法衣に隠された体躯はまるで豚のよう。

 仮にも国を代表する神官なら、もう少し見た目に気を配れよと思うが、いまはそんなことはどうでもいい。


「答えろ、豚足!」


「──なっ、と、豚足だと⁉ この『不死蝶』のワシに向かって、このくそガキがぁ!」


「あ、王子に向かってそういうこと言う? 父上に報告しっとこーと♪」


「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬ!」


 目尻を下げてべーっと舌を出してやれば、大祭司は額に青筋を立てて身体を震わせた。

 しかし、ごほんと咳払い。

 すぐに気持ちの悪い笑みを向けてきた。


「──どうして、と仰られましても。すでにかの国との停戦条約は結ばれました。今後、帝国を刺激するような行動は控えよと国王陛下も仰せでございますゆえ」


「知るかっ、そんなもん! オレはイーファ姉さんを助けに行くんだ! つーわけで、その宝剣よこせ!」


「いけません、殿下! 誰ぞ、殿下を御止めしろ!」


「ははっ」


 神殿に祀ってある宝剣を掴んで走り去る。

 だけど、豚足大祭司の部下たちがオレを捕えようと手を伸ばしてくるので、その合間を縫って出口まで走れば、ああ悲しきかな。見事につかまってしまう。


「──くそっ、はーなーせ────!」


 こんな感じでオレは神殿を追いだされ、城の自室へと閉じ込められてしまうのだった。

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