最終章 食べたいもの

第32話 証明に感謝を

「私は霊でも白紙とやらでもない。たった一つの創作料理に向けられた未練の集合体だ」


 ルイについて初めて聞く情報だ。ゆっくりと言われた言葉を噛み砕いていく。


「ルイは白紙でも食に未練がある霊ではなく、食の未練そのもの……?」

「ああ。奇跡的に形を保ち、ここに在ることができている」


 私の中に白紙の力があることをあのお祖父様が断言しており、それがルイのものではないのなら。本当に私に力が宿っているということになるだろうか。微塵もその気配を感じ取ることはできないでいるけれど。


「あの店がなくなっても、客からの”ルイ”を求める気持ちは止むことがなく、それは未練となって積み重なった。それが集合して彷徨っていたところを引き寄せられたのだ。……白紙の力にな」

「白紙は私の中にあるから……ルイがここにいる」

「そうだ。私がここにいることが白紙の証明になり、卓も自分が白紙の力を持つことも納得できるだろう」


 確かにそうだ。ルイが存在できていることは私が一番よく知っており、認めてもいる。これまで詰まっていた考えが一気に動き出した。


「それでは、ルイのことを誰にも話してはならなかった理由って……」

「卓が危険な目に遭うのを避けるためだ。白紙に引き寄せられ、力を与えられて知った。綾咲家が繰り返してきたくだらん争いをな」

「ルイ……」


 綾咲家の人間は白紙のことになると冷静さを欠いてしまう。皆負けず嫌いな性分で、自分より力が強いものがいる状態を基本的に気に入らない。私は”余り”として育てられたからそこまではなかったが、兄弟たちや従兄弟など親族間での醜い争いはレベルが低くて酷いものだった。霊力の無駄遣いだとよく思ったものである。

 それを知ったルイが私にキツく口止めをしてくれていた理由に心が温かくなった。


「ルイは私のために霊を呼び寄せていたと言っていましたね」


 彼女を見ると、少し気まずそうに目を逸らされる。ここ数日でこれまで遠かったルイとの距離が一気に縮まったように感じた。


「最初は私も、意識せずに霊を呼び寄せてしまっていたんだ。でも霊と話している時の卓はとても楽しそうで……卓はこれまで余りとして生きてきただろう。霊を呼べば卓が孤独にならず、霊力も報酬も得られると思った」

「そうだったんですね……」

「しかし、一人の霊と別れてから卓は変わってしまったな。霊と一切関わらなくなった。孤独の中、ずっと何かを諦めているように過ごしていた」


 七年前の話だろう。私とある霊が親密になりすぎて、霊が成仏できなくなり、お父様の手による強制除霊となった。あの時は確かに辛かった。心が通じ合った存在が、けたたましい悲鳴をあげて消えていったのだ。今でも思い出すと身体が震える。


「でも、また昔のように笑ってくれたらと、私は霊を呼ぶことをやめなかった。そして今、また昔のような卓を見ることができた」

「……本当にルイは、私の味方でいてくれるんですね」

「当たり前だ。卓がいてくれるから、私もここにいられる。卓が楽しそうにしてくれていれば、なんだっていいんだ」


 なんだか泣きそうになりながら私は震える声でお礼を言った。ずっと誰にも頼りきれずに、霊力が足りなくとも一人でなんとかするつもりだった。でも結局ルイに助けられ、頼にも出会って、自分がどれほど恵まれていたのかを実感する。


「ルイ……私、貴方のことが一層好きになりました。ここにいてくれて本当に、本当にありがとうざいます。これからも、どうか傍にいてくださいね」


 ルイは照れくさそうに笑って頷いてくれた。私の中に力がある限り、ルイを、自分を守っていかなければと強く思った。






『卓』


 しばらくして、万華鏡からお祖父様の声が呼びかけてきた。遠くから何人分か聞き覚えのある声がする。一つは利伝、もう一つはお父様。そして、現当主である楼佳様。その当主の嫌な声が続く。


『おおう、誰かと思えば。我が甥の”余り”くんではないか』


 声が聞こえた瞬間私の身体は強張り、嫌な汗が流れた。

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