第29話 灯台下暗し

「もう一つ、いいものをやろう」


 ルイがパチン、と指を鳴らすと、頼のスマホが着信を知らせた。


「え!? し、師匠!?」


 スマホを見た瞬間、頼が大声を上げる。画面には大きく”師匠”と表示されていた。


「おや。時間みたいだな。また会えたら話をしよう」

「あ、ちょっと待っ——」

「じゃあな。……最後に、私のことは卓以外には話さないように」


 卓の姿をしたルイは笑っていた。しかし鳴り響いたままの着信に気を取られ、頼は通話ボタンをタップする。

 スマホを耳に当てながら頼が目の前の人物に視線を移すと、そこには窶れ切った卓が座っていた。



ーーーーー


「も、もしもし……? どうしたんすか師匠、今どこに……?」


「はい、あの創作居酒屋と前のチョコショップで……はい」



「……?」


 誰かの声がする。やけに眩しくて恐る恐る目を開けると、迫真の顔で誰かと電話している頼がうっすらと見えた。


「頼……? お祖父様は……」

「案ずるな。無事だ」

「(それならよかった……)」


 お祖父様に身体を貸してしばらくした後。自らの裏側に祖父が現れ、代わりにルイが姿を消した。私は目の前に現れた万華鏡で表側の話を聞いていたが、途切れ途切れでほとんどが聞き取れなかった。


 私の身体を借りて話をしていたのはおそらくルイ。二人の会話なら、もっとちゃんと聞いておきたかったのにと残念に思う。


 でも一つだけ、聞き取れたことのにわからなかったことがある。



 ”頼は卓と再会できてよかったか?”



 あの言葉。

 再会ということは、あの夜店員と客として出会ったはずの私と頼は、一度どこかで会っていたということになる。そしてそれをルイは知っているということだ。私には全く覚えがないのに。


 これまで出会った人をできる限り思い出していく。でもそこに頼はいない。ただ、どうしてここまで頼が力になってくれるのかの答えに少しだけ近づいているような気がした。


「悪い。大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です……ただいま戻りました」


 頼は焦ったような顔をしながらも落ち着いた声で戻ってこられてよかったなと笑ってくれた。心配されているようなので、かなり私の顔がひどい状態なのだろう。体調は最悪だ。


「卓のお祖父さんの食べたいものの答えが見つかった。すぐ用意するからもう少し待っててくれ」

「え……?」

「灯台下暗し。お祖父さんが言っていた店、俺の師匠の店だったよ。しかもその料理、俺も教わって食べたこともあった……」

「本当ですか……!」


 説明しながら頼はキッチンに移動する。その間何度も迷うように口を開き、きゅっと閉じて手を動かし始めた。

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