喫茶BlueMoonの事件簿

暁月の空(あかつきのそら)

プロローグ

電車を降り、そのまま人の流れにのり、改札を出た駅前の十字路には、今日も観光に来た海外の人たちやファッションやスイーツを求めて来た若い人たちなどで、ごった返し道端には、ストリートミュージシャンや大道芸をする人たちが楽しいショーを繰り広げその前には小さな人だかりができ、そのショーに見入っていた。高く聳え立つビルに備えつけられた大きなモニターには新しいゲーム、有名なグループの新曲、新しく発売される化粧品のCMなどが繰り返し流れていた。

 モニターに視線をむけたあとに、慌しくすれ違う人々の間を泳ぐようにかき分け十字路をわたるとそこは、高くなった秋の空に映える黄色に紅葉したイチョウの並木道が長く延びていた。

 しばらく並木道をぶらりぶらり歩いて行き、数店のスイーツ店や洋服屋を横切り、趣のある石の階段が見える細い脇道に入ると、そこは今までの謙遜が嘘かのような静かな空間が広がっていた。細い道が続いている石階段を上がり道なりに歩いて行くと、心臓破りな坂が現れる。そこで坂を見て引き返すことをせずに、坂をのぼり、人がいないひときわ静かな公園を横目に息を切らしながら坂をあがり続け、やがて坂の一番上にたどり着く。そこでひと息つき顔を上げ振り返ると、眼下には先程までいた街を見下ろすことができた。

 視線を前に向けると、そこには静かな住宅街が広がっている。しかし、目の前の道の右側には、住宅街には似つかない赤い屋根の丸太小屋風の建物が建っている。

 家にしては異質な、丸太小屋近づいて見てみるとその前には、夜空に輝く美しい青い月と白い文字で『喫茶Blue Moon』と書かれた小さな看板が置いてあり、その隣には、喫茶店らしくコーヒーだけでなくナポリタンやシフォンケーキなどの種類豊富なメニューと値段が書かれた小さな黒板が立っていた。そして、『Open』と書かれた札がかかる店の中からは、思わず入りたくなるような、いれたてのコーヒーの香ばしい香りが外まで秋の風にのせて漂ってきていた。ガラス戸から中を覗くと、中にはカウンターの前に数席とソファ席がいくつかあり、カウンターの中にはマスターだろうが男性が立ち、数人のウェーターとウェイトレスが忙しそうにホールを行き来していた。

 その落ち着いた雰囲気とコーヒーの香りに誘われ、カランカランとカウベルを鳴らしながら喫茶店に入る。

「いらっしゃいませ!お好きな席な席にどうぞ!」

 短い髪のウェイトレスの女性に言われ席に座った。


 そこは一見するとごく普通の喫茶店。しかし、そこで働く人たちは実は⋯。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る