第14話 施術開始、公爵家の反応
ユキは、公爵家の使用人に案内されながら、豪奢な廊下を歩いていた。
「こちらが施術室になります」
通された部屋は、まるで特別なサロンのようだった。
1メートル以上はある大きな姿見 が部屋の中央に設置され、壁には金縁の鏡が掛けられている。
床は大理石で、使用人が常に手入れをしているのか、塵ひとつ見当たらない。
そして、隣の部屋には浴室が用意されていた。
「ここで髪を流すことができますので、ご自由にお使いください」
(確かにこれは貴族向けの環境ね……)
庶民の暮らしでは到底考えられない設備。だが、この環境があるからこそ、ユキは安心して施術ができる とも言えた。
「最初は私からお願いしてもよろしいですか?」
そう言って椅子に座ったのは、公爵家の長女 セシリア・マーストン だった。
「ええ、もちろんです」
ユキは頷きながら、ふと気づく。
(……そういえば、カットクロスがない)
美容院では当たり前に用意されていたものが、ここにはない。
髪を切る際、服に毛がつくのを防ぐためには必須の道具だ。
ユキが困惑していると、使用人が「こちらをお使いください」と布を差し出した。
「……これは?」
広げると、シルク製のカットクロス だった。
(カットクロスというよりは……ただの大判のシルクの布ね)
しかし、今はこれでも十分だった。
「ありがとうございます、助かります」
使用人に礼を言いながら、ユキはセシリアの肩に布を掛け、固定する。
(でも、このままだとちょっと問題があるわね……)
シルクは軽くて肌触りもよく静電気も起きにくいがプラスに帯電はしやすい為静電気が発生しないわけではない。
施術が終わった後、毛を払うのが大変になるだろう。
(もしウールを織り込んで表面を滑らかに加工すれば、更に静電気を抑えられるかも……)
ユキは、新しいカットクロスのアイデアを思いついた。
「これは改良できる」 と、心の中で決意する。
「では、始めますね」
ユキはセシリアの髪を手に取り、慎重にカットを始めた。
セシリアの髪は柔らかく、波打つような緩やかなカールがかかっている。
(この髪質なら、まとまりを意識しつつ、動きを出すカットがいいわね)
ユキは、滑らかな動きが出るように、丁寧にハサミを入れていく。
「すごい……」
セシリアが鏡越しに驚いた声を上げた。
「カットするだけで、こんなに軽くなるなんて……!」
彼女は嬉しそうに髪を指でとかしながら、変化を実感している。
周囲の使用人たちも興味深そうに見つめていた。
「確かに、手際が違いますね……」
「髪をすくようにカットしているのかしら?」
使用人同士が小声で話しているのが聞こえる。
(……いい感じね)
ユキは内心で頷きながら、仕上げのカットに入った。
数分後——。
「できました」
ユキがハサミを置くと、セシリアは再び鏡を覗き込む。
「わぁ……!」
彼女の目が輝いた。
「すごく綺麗! ふわっとしてるのに、まとまりが良くて……!」
セシリアは髪を触りながら、心から感動している様子だった。
「ありがとうございます、ユキ様!」
(“様”って呼ばれるほどのことじゃないんだけどな……)
ユキは少し照れながらも、「気に入っていただけてよかったです」と微笑んだ。
「次は、私もお願いしようかしら」
セシリアの仕上がりを見て、公爵夫人 アリシア・マーストン が着席した。
彼女の髪は長く、貴族らしい気品に満ちている。
「どのようなスタイルをご希望ですか?」
「そうですね……貴族らしい上品さは残しつつ、お手入れしやすいスタイルがいいかしら」
(なるほど、シンプルだけど洗練されたカットね)
ユキは、アリシアの希望に沿う形で髪を整えた。
そして施術が終わると、アリシアは驚いたように鏡を見つめた。
「まあ……今までの髪型より、ずっと素敵ですわ」
「すごくお似合いですよ、母上!」
セシリアが嬉しそうに声を上げる。
「ありがとう、ユキさん。あなたの技術、素晴らしいわね」
ユキは丁寧に頭を下げた。
「最後は僕か……」
渋々といった様子で椅子に座ったのは、長男 ヴィクトル・マーストン。
彼は最初からあまり乗り気ではなかったが、母と妹に勧められ、仕方なく施術を受けることになった。
(ヴィクトル様は、すでに整った顔立ちをしているから……)
ユキは、貴族の男性らしい上品なショートスタイル に整えることにした。
少し長めに前髪を残しつつ、横をすっきりさせることで、品格を損なわない爽やかな印象を出す。
「……」
施術中、ヴィクトルは何も言わず、ただ鏡を見ていた。
(不満があるのかしら?)
ユキは少し気にしながらも、慎重に仕上げを進める。
——そして、カットが終わると。
「……意外と悪くないな」
ヴィクトルは、鏡越しに自分の髪を見ながら呟いた。
こうして、ユキは公爵家の施術を終えた。
「これからも定期的にお願いできるかしら?」
「はい、もちろんです」
こうしてユキは、公爵家での地位を確立し、今後のさらなる仕事につながる確かな手応えを得たのだった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます