第15話:意識する距離
週末の昼下がり。
カフェのテラス席でコーヒーを飲みながら、本をめくる。
久しぶりに何も予定のない休日。
とはいえ、最近は仕事の合間を縫って楓と会う機会が増えたせいか、
こうして一人でいるのが少し不思議な感じがする。
そんなことを思いながら、スマホを手に取る。
メッセージの通知は特にない。
「……」
軽くコーヒーを啜り、本に視線を戻した、その時だった。
「れいちゃん?」
顔を上げると、そこに楓が立っていた。
「……お前、また偶然か?」
楓は小さく笑う。
「偶然ってことにしときます?」
「違うのか?」
「……まあ、近くにいたので」
俺は軽く眉を上げた。
楓がこんなふうに俺のいる場所に"偶然"いるのは、これで何度目だろう。
「よかったら、座っても?」
「好きにしろ」
楓は嬉しそうに向かいの席に腰を下ろす。
「れいちゃん、何読んでたんですか?」
「適当な本だよ」
「ふーん、先輩っぽいですね」
「なんだそりゃ」
楓はクスクスと笑いながら、メニューを手に取った。
「れいちゃん、仕事どうですか?」
「どうって?」
「相変わらず忙しいんですか?」
「まあな」
「ちゃんと寝てます?」
「そこそこ」
「……ほんとかな」
楓が少しじっと俺を見つめる。
「れいちゃん、最近目の下、ちょっとだけクマできてますよ」
「そうか?」
「そうですよ。少しは休んだほうがいいですよ」
「休めるならな」
「……」
楓は少し黙った後、カップを置く。
「れいちゃんが、仕事の話するときの顔、好きです」
「なんだ急に」
「うーん……なんか、ちゃんと考えてるんだなって思うから」
「そりゃ、考えずに仕事はできないだろ」
「それはそうですけど……でも、れいちゃんって『仕事に興味ない』って言うわりに、真剣ですよね」
「……どうだろうな」
楓はじっと俺を見つめたまま、カップを両手で包んでいる。
その視線が、なんとなく意味深に感じられて、俺は少し目を逸らした。
店を出て、駅までの道を並んで歩く。
「ねえ、れいちゃん」
「ん?」
「今度、一緒に飲みに行きません?」
「いいけど、何かあるのか?」
「……ううん。なんとなく」
「またなんとなくか」
「……ダメですか?」
「別にダメとは言ってない」
「よかった」
楓は小さく笑って、少しだけ俺の腕に近づいた。
その距離が、わずかに近い気がして、俺はなんとなく意識してしまう。
「じゃあ、また連絡しますね」
「おう」
楓が手を振って、改札を抜けていく。
俺はその背中を見送りながら、ふと考えていた。
——最近、俺たちの関係は、どこに向かっているんだろう。
(続く)
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