第50話 マジ、ダゾ!

「そんなこと言われてもな。なあ、英雄殿?」


「ウム。貴様ラガ何者ナノカ見定みさだメルタメニ乗ッテヤッタマデノコト。共ニ、カノ有名ナ魔王ガ居ルナラ警戒スルノハ当然ノコト。我ガ友モ同ジ考エデアルノ」


 二人は邪竜の体から何事もない風に抜け出てきた。邪竜の胸の穴は自然に塞がっていった。


「はあ? 悪魔をだましたとでもいうのですか?」


「悪魔か何だかは知らないが、配下に裏切られるなんて産まれて初めてのことだったからな。新鮮ではあったよ」


「デ、魔王殿、ヨハネストカイウ男、確カニ存在トシテハいびつ。ドウ倒スノダ?」


「ほう、英雄さまでも悩むのか。俺もあいつのことよく分かっていないんだが、多分方法は地球人がくわしいはずだね。アリエッタ、神聖系の魔法っていけるか?」


「はっ? 私? ええ、まあ……。でも、悪魔ってがどうとか面倒な感じではなかったかと思うのですけども。これでも一端いっぱしの科学者やっておりまして、どっちかと言えば無神論者だったりするのですよ。ははっ……」


「適任なのはアルベルトなんだが、英雄さまからの継承の影響で魔法は使えない。俺もまあ、魔王だしさ。そこのシルビア皇女殿下は使えても回復系魔法で、ギヨームはやる気がないときた。ここは伝説の魔法使いさまの出番だと思うのだが」


「そ、そんな……」


「何をごちゃごちゃと! 私、完全に頭にきました。悪魔を馬鹿にするにもほどがある! 神なんてやつは地球で勝手に自滅したはず、私にもう恐れるものはないのですよ! いまからお前たちを恐怖のどん底に……」


「なあ、ヨハネス。神さまって存在ならアリなのか?」


「あん? そんなのあの似非女神えせめがみイシスは見当違けんとうちがいですよ。この星にそんな存在は確認しては……、いや、もしや……」


「アリエッタ、お前、と仲良くなっただろ?」


「ええ、まあ……」


「だったら大丈夫だ。お前には加護かごがついてるはずだ。それも邪神中の邪神、それも強力な破壊神様の加護がな」


「ええっ!? それってマジなお話ですか?」


「マジだ。なあ、カーリー?」


「マジ? オッ、オッ! マジ、マジ、マジ、ダゾ!」


「それならばお言葉に甘えまして」


「ちょ、ちょっと、ありえません。そんなことはありえ……」


「極大魔法ホーリーバー……」


「ひいいっ!」


 あっ、ヨハネスが消えた。というか逃げた。


「あちゃあ、逃げられてしまいました」


「まあ、放ったところでどうせ当たらないだろうね。脅しておいて、俺達に近づく気を無くさせれば成功さ」


「ああ、そういうことでしたか」


 アリエッタはそう言って脱力する。カーリーも元の手のひらサイズに戻って、俺の頭の上に戻ってきた。


「オデ、アルトイッショ!」


 何だろ、頭の上にカーリーが乗っかってると落ち着く。


小僧こぞう、貴様ガ新タナ英雄デアルカ?』


 そのさらに頭の上のほうから脳内に直接、老人のような声が響いてきた。見上げると邪竜が俺の顔をのぞき込んでいた。


「あっ、そ、そういうことになりますかね……」


『友ヨ、コノヨウナ華奢きゃしゃしゅつとマルノカ?』


「サテ、ソレハてんノミゾ知ルコト。我ラガ考エテモ仕方ナイ。アノ時、アルニ我ノ力ヲさずケタノハ運命デアリ、必然。間違ッテイタトハ少シモ思ッテハオラヌ」


 邪竜さんとオジジさんが何か言っている。華奢って、そりゃオジジさんみたいにムキムキじゃないけどさ。まだまだ成長の余地はあると思う。多分……。でも、世界を破滅させようとした災厄の邪竜と英雄ライジンであるオジジさんが友達ってどういうこと? まあ、この感じだと怖くはなさそうだし、いいか。


「英雄殿、聞いておきたいのだが、なぜ英雄の力をアルベルトに継承したんだ?」


 俺が聞きたかったことを魔王エル兄が先に言ってしまう。


「ウム。アレハ友トノ死闘ノ最中デアッタ。貴様ラノ船ガコノ地二降リテキタ事ハ、我モ友モ気ヅイテオッタ。地上ハ戦禍せんか見舞みまワレ多クノ同胞ガ死ンダ。最後ノ船、貴様ラガ乗ッテキタ船ガ真上ニ落チテキタ時ニ思ッタノダ。何ノ為ニ我ラハ長キ年月ニ渡リ戦ッテイルノダロウカトナ。コレハ友モ同ジ考エダッタヨウデ、イヤ、勝負ノ着カヌ戦イニイテオッタノダッタカ……。結局、我ラハ戦イヲ止メ地上ノ行ク末ヲ見守ル事ニシタノダ」


「後に俺も知ったんだが、あんたたちずっと二人で戦ってたんだな……」


「ウム。誠ニ滑稽こっけいナ話ダノ。アノ、イシストカ言ウ存在ノ力ガ大キクナリ、地上ハ恐ロシイ火ニ包マレタ。アレハ、カツテ地上カラ取リ除カレタハズノマワシキ力。ソレヲ持チ込ンダ貴様ラハ抹殺スベキ対象ダト我ト友ハ確信シタノダ。友ハ迷宮ノ魔物タチニ侵入者ヲ殺セト思念デ支配シタ。我ハズハ手始メニト、コノ上ニアッタ船ヲ探ッテミタトコロ乗員ノほとんドハ死ンデオッタ。ソノ時、船ニ残ッテオッタノガ、カーリーデアッタノ。イシスニヨルモノダト今ナラ理解デキル。船ニ現レタ見知ラヌ我ニ、カーリーハ懇願こんがんシタノダ。唯一いきノアル子供ヲ救ッテクレト」


『フフッ。友ハ、子供ハ殺センカラノウ。確カニソウナルノハ必然デアッタカ。英雄ノ力ハ多クノせいアルモノニモ微弱デハアルガ流レテオル力。ソレヲ授ケレバ止マル心臓モ動クデアロウヨ』


「おいおい、子どもひとりの命を救うために英雄の力を捨てたのか、あんたは?」


「アンナモノ、サシテ使ウコトナド無カッタカラノ。かざリミタイナモノデアルナ。ダガソノセイデ友ノ思念ニ影響サレガノ」


「飾りって……」


 エル兄があきれた顔をしている。


「ソウ言イイナガラ、魔王ヨ。貴様、アルガ生キテイタ事ニ涙シテ喜ンデオッタト、カーリーカラ聞イタゾ。魔王デモ涙スルノダナ」


「げっ、余計な亊を……。あんたはカーリーと仲の良い、おかしな魔物だと思っていた程度で、まさかあんたがアルの命を救ってくれただなんて知らなかったんだ」


「オデ、ワルクナイ、チャント、ハナシタ!」


「いや、そのスライムのときのお前の言ってることって、俺でも分かりにくいんだよ!」


「ダガ、アノ極悪非道ヲ尽クシタ魔王ガ、何故一人ノ人間ヲ大事ニスルノダ?」


「そ、それは……」


「オデ、シッテル。エルンストニ、ムカシ、イタ。デモ、シンジャッタ。ダカラ、アル、オトウト。オデノイウコト、ワカルカ?」


「ナルホド。大凡おおよそハノ。ソレデ魔王殿ハ、アルノ為ニ地上ニ楽園デモ創ロウトシテイタトイウ亊カノ?」


「な、何言ってんだよ。お、俺はこれでもかつては魔王と……。ああ、もういい。めだめ! お前らで勝手にしやがれ!」


 そう言うと、エル兄の姿は消えてしまった。


「ニゲタ。エルンスト、ニゲタ」


 頭の上でカーリーがねる。何だかはっきりしないけど、エル兄はやっぱり俺のお兄ちゃんだと言うことだけは理解できた。

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