第24話 頃合

 俺の髪もずいぶん伸びて、もう肩まである。視界がさえぎられて邪魔なので結んでいる。紐なんてないのでドラゴンのヒゲの先で代用している。朝起きてドラゴンなんかを狩り、それを焼いて喰らい、オジジさんと取っ組み合う。眠たくなったら寝て、その繰り返し。たまにカーリーと探検して回る。ここは俺の知る迷宮と同じだということはオジジさんから教わった。何階層あるのかは不明だがとにかく底の深いところであるらしい。まだ下に迷宮は続いているが、降りることは禁じられている。オジジさんでも生きて戻れるのかは分からないらしい。まあ、俺は下には興味はなく上に戻りたいのだ。上層への階段は数日前に見つけた。上は上で厄介やっかいな魔物がいるらしく勝手に上に行くのも駄目だと言われている。俺は言われたことは守れる子なので、そんな約束を破ることはしない。きっと神さまはそういう俺の悪い心を見ているに違いない。できることなら俺は兄弟たちの待つ天国に死んだら行きたいのだ。


「アル、今日ハ、オ互イ手加減ナシデヤロウゾ」


「えっ? いいの?」


「ウム。モウ、頃合ころあいイデアロウ」


 オジジさんとの毎日の稽古で、俺はずいぶん強くなったと思う。だが、オジジさんの壁は高くいまだに超えられる気がしない。数ヶ月前に俺の放った打撃が地面を撃ち抜いて洞窟が崩落しそうになったことがあった。そこからは技術面を重視した組み手訓練になったんだったか。


「でも、そんな暴れまわれる場所なんて……」


「イヤ、アルゾ。ツイテ来イ」


「オデ、シッテル。アソコ、ガンジョウ、ジョウブ。アナ、アカナイ」


 カーリーがぴょんぴょん跳ねながらそう言う。


「カーリーも知ってて、頑丈な場所?」


 長いこと一緒にこの階層にいるが、そんな場所に心当たりはなかった。とりあえず俺はオジジさんとカーリーについていく。



 そこはあの不思議な建物のある空間だった。一通り入れる場所は見たつもりだったのだけどまだ俺の知らない場所があるのだろうか。オジジさんは妖精であり、ガーディアンのエル兄にこの区画へ自由に出入りできるようにしてもらっているらしい。オジジさんが言葉を話せるようになったのもエル兄によるものだと以前聞いた。でも、そんなオジジさんでもあのエル兄が何なのかまでは知らないと言っていた。


「ココ、ココ!」


 さらに歩いていった先は、建物が立ち並ぶ中央に位置する広場のような場所。その何も無い中心でカーリーが飛び跳ねる。よく見るとカーリーの跳ねるその場所はあの黒いつるつるの石版が設置されていた。カーリーがそこをどくとオジジさんが地面に手をつく。


『MOGREM11、認証いたしました。ご希望をお伝え下さい』

  

「殲滅兵器対応。強度ハ一番上デ頼ム」


かしこまりました。過去履歴参照。前回と同じ仕様で展開いたします』


「ウム」


 またあの謎のお姉さんの声が聴こえた。俺は辺りをうかがうがやはりどこにもそんな人はいない。


「何だ?」


 すると地面から巨大な壁がせり出して、俺達を取り囲んだ。地面と天井にも同じような材質のものが現れて部屋のようになった。迷宮の岩と同じで壁自体が発光してその空間は明るく照らされていた。


「コレデ問題ナイ。以前、カーリート時モ問題ハ無カッタノデノ」


「問題ないっていうのは分かる気がするけど。オジジさん、カーリーとやり合ったの?」


「ウム。相性ノ問題モアルガ、三日三晩戦ッテ勝負ハツカナカッタノ。アノ極悪スライムヲ二度モ倒シタトイウ、ト思ウゾ。カーリーニ言ワセレバオマエハ、ユウシャサマラシイカラノ」


「ユウシャ?」


 なんかそんなことをカーリーが言っていた気がする。


「オソラク人間デ言ウトコロノ『勇者』ヤ英雄ノコトデアロウ。ダガ、我ガ自我ヲ持ツ以前デモ、ソウイッタ連中ハコノ階層ニハ辿たどリ着ケナンダガノ」


 勇者さまっておとぎ話の中だけじゃないのかよ。それにこの口ぶり、辿り着いていないっていいながら、オジジさんが勇者さまパーティを壊滅させていそうな雰囲気。たぶん気のせいじゃないのでは。ということはカーリーもそんな伝説の勇者さまに会ったことがあるってことなのだろうか。まあ、聞いても上手く説明してくれる気はしないけど。


 でも俺が二度倒したって……。一回目はあの記憶の中の俺か、たぶんあのビリビリはカーリーのような魔物には効くのだろう。で、もう一回は? ん? あっ! もしかして俺が落ちてきた時……。カーリーがクッションになったというか、俺がつぶしちゃったのか? あの寝心地ねごこちはどこかで、とは思ったけど……。ああ、ゴメンよカーリー。でも、お前は俺の命の恩人だぜ! 俺はとりあえず心の中で感謝しておくことにした。


「デハ、まいルゾ!」


「はい!」

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