第7話 追い込まれる日々②
一方、シエラの苦悩はますます増していく。昼夜を問わず押しかけて問い詰めてくる使者や、匿名の脅迫めいた手紙。彼女が外を歩けば、まるで見せ物のような視線が集まる。ある貴婦人などは彼女を見つけると、わざとらしく鼻をつまみ「あら、噂どおりに下賤の香りがしますわね」と嘲笑した。周囲の取り巻きも笑いを
夜になると、彼女は少しでも安堵の時間を得ようと自室に
「殿下……わたし、何をすれば……どこをどうすれば解決するのでしょう……」
レオネルの私室に駆け込んだシエラは、
「わからない……俺も、どう動けばいいのか……一度国王に直談判しようとしたが、取り巻きがいない今は面会すら叶わない。あの方たちは俺を避けているんだ」
「そんな……」
シエラはただ目を伏せ、唇を噛む。王家の内部で何か大きな力が働いているのか、あるいは別の貴族が糸を引いているのか、それとも得体の知れない裏社会が動いているのか――どれを考えても結論は出ず、自分たち二人は隅へ隅へと追いやられるばかり。まるで脱出口のない迷路を彷徨うような心地だった。
この光景が、遠巻きに見えない糸で操られていることなど、二人は想像もできない。実際は、カトレアが徹底してシエラを追い詰める土台を作っているだけで、周囲の貴族たちが勝手に「共倒れ」の道へ駆け込んでいるのだ。カトレアが表立って動かなくても、シエラとレオネルの孤立は加速していく。それこそが彼女の思惑通りであり、狙い通りの結果だった。
そうして日が経つにつれ、シエラの心身はじわじわと
「……これがわたしの、望んだ未来だったのでしょうか……」
自室で膝を抱えているシエラの姿は、以前の慈善活動に打ち込む活気ある女性とはまるで別人のようだ。荒れた息、開け放たれた窓から流れ込む夕刻の冷たい風が、彼女の皮膚をぞっとするほど刺す。差し込む赤い陽光が、か細い願いと絶望の深さを同時に浮かび上がらせる。そこへ、ただ一人レオネルが訪ねてきて、黙って隣に腰を下ろす。
「シエラ……俺は、おまえを救ってやれずにすまない。どれだけやろうとしても、周囲の視線が冷たいんだ」
「殿下のせいじゃありません……わたしが……もっとしっかりしていれば……」
二人がか細い声で語り合う時間。それは一見、かすかな救いに思えるが、彼らの疲弊を際立たせるような無力感があるだけだった。手を取り合っても、そこから何一つ前に進めない。親しくしていた者たちは皆、姿を消すか、背を向けてしまった。王家の内部ですら、レオネルを敬愛する声はほとんどかき消されている。
「いったい……誰がこんな状況を仕組んでいるのだ……」
小さく
そして、その光景を想像する者が一人、公爵家の奥深い空間で静かに微笑んでいた。カトレアは、自らの手を汚さなくともシエラが自壊の淵に立つさまを思い描き、深く満足している。直接殺すのではなく、じわじわと追い詰め、苦痛と孤立を最大限に味わわせてからどん底に落とす――その過程こそが、彼女にとっての最大の喜びとも言えるのだ。
「焦らなくてもいい。このまま、あの娘の心が砕けるまで待てばいいわ」
血の香りこそしないものの、感情を
こうしてシエラは、日々の中で四方から重圧をかけられ、ゆっくりと正常な判断力を失いつつあった。一縷の希望を求めて手を伸ばしても、そこには誰もいない。レオネルが存在するけれど、彼もまた立ち塞がる壁をどうにもできず、焦燥と不安を抱えるばかりだ。王宮の噂はさらに陰湿化し、「平民が高望みするからこうなるのだ」「成り上がりが身の程知らずの行いを重ねた罰だ」といった声が後を絶たない。
誰も明確な証拠を示さず、ただ冷たい嘲笑と偏見のまなざしでシエラを追い込む。彼女が真実を訴えようと声を上げても、それは閑散とした廊下に虚しく反響するだけ。手紙や書類を揃えても、「平民ごときが捏造しているのでは?」と返され、理が通じないまま打ち砕かれる。もはや、シエラに残された道は祈りと涙だけなのかもしれない。
まもなく、王宮にはさらなる不穏な噂が広がり始める。それがどのような形で二人を襲うのか、まだ誰も具体的には知らない。だが、少なくともこのまま事態が収束する望みは薄く、むしろ新たな混乱と闇を
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