魔王の城のユグドラシル~転生先は植物の苗でした!?~

カザミドリ

第1話 魔王の城に生えたのです

「お主、名はなんと言う。」


 ふいに目を覚ました俺は目の前の大男に問われる。

 灰色の肌に角なんかも生えていてその風体は悪魔然としたものだった。背中にはおどろおどろしい大剣を背負っている。

 その威圧感のせいか体が思うように動かない。


「わ、私は……すみません。名前が思い出せなくて」


 俺は少しどもりながら答える。

 思い出せなかった、記憶にノイズが入ったように名前がぼやけて溶けてている。

 覚えているのは自分が転生したという事実だけ。どこから来たのか、何者だったのか。


「そうか、それなら仕方あるまい。ところでお前はどうしてここに来たのだ?」


 そんなこと言われても正直俺にも分からないのだが・・・とりあえずありのままを話すか・・・。

 俺は自分が異世界に転生した、それしか覚えていないことを説明した。

 するとそいつは大層驚いた様子で言った。


「なんと!転生者だったのか、魔王である私ですら異世界からの転生者と会うは初めてだ。転移者は数百年に一度ほど見るのだがな」


 なるほど、転移と転生の違いも知らなかったが、どうやら俺は魔王様すら知らないようなレアケースらしい。

 って魔王様!?どうりで威圧感で動けないわけだ、と納得する。


「ところで名もなき者よ、お前はどんなスキルを持っておるのだ?」

「スキル?」

「そうだ。知らぬのか?なるほどスキルのない世界から来たのか……。簡単に言えば超常を起こす特殊な能力だ」


 なるほど、ゲームや小説でよくあるやつだな。しかし俺のスキルと言われても確認のしようがない。


「自分自身に意識を向けてみろ、自然と浮かんでくるはずだ」


 自分自身に意識を向ける。

 体に向けるのか?精神に向けるのか?

 そんなことを考えていると不意に言葉が浮かんできた。


「……『ユグドラシルの萌芽』?」

「ふむ、ユニークスキルか。……相分かった」


 そう言うと魔王は徐に大剣を抜き放ち俺に向けた。


「最後に問おう。なぜ我の城に生えてきた?」


 そこに込められたのは紛れもない敵意。

 そして、生えてきたといわれて初めて気づいた自分の状況、動かない身体の理由。


 俺は、俺の体は植物になってしまっていた。

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