第52話

「クッフッフッフ、料理の邪魔をしたじゃろうか」


 老いた声と共に、茂みを揺らして二人の人間が林の奥から現れた。


 生首を乗せた海老茶色の低い台が歩いて来た!

 前の男はそう表現するしかない。

 海老茶色のマントは、中に何かを隠しているように円柱型に膨らんでいる。

 その上には大きい丸禿げの大きい頭、瞼と頬が膨らんだカエル顔をした男性老人の頭が乘っていた。

 老人の後ろには同じく海老茶のマントにフードを被り、数本の剣を背負って立っていた。

 老人が100センチくらい、後ろの人は160センチぐらいか。


「道に迷われましたか。

 大通りは向こうです」


 作り笑いを浮かべてそう言いながら、マリーは袖の奥から金の杖を出した。

 あわわ、杖を出したって事は、僕にはわからないけど相手は殺気を放って戦う気マンマンらしい。

 緊張した空気の中、僕は肉を一つ一つ回していく。


「クッフッフ、笑えるようになるとはすごい進歩じゃろかのう。

 操金術士マリース殿」


「お久しぶりです、クグロフさん」


「あれ、二人は知り合いなの?」


「ダルマちゃんは口を挟まないで下さい」


 珍しくマリーに拒否られた。

 ちょっとムッとする僕に老人クグロフが顔を向ける。


「ワシは『魔剣崇拝教団』、十七羅官(らかん)の一人、クグロフ。

 以後お見知りおきを、ダンディライアン=ルマ殿」


「なんっ!? また僕の本名を?

 もしかして笑面虎の仲間?

 って、魔剣を崇拝!?」


「マリース殿が通られた後に村から消えた少年。

 なんと不思議じゃろうか!

 その肉を巻いていた左手と何か関係があるのじゃろうかのう?」


 くっ、このジジィ、マリーの秘密をある程度知っている!

 マリーが僕に話すのを止めたのは、相手に余計な情報を与えないためか!

 とか考えながら僕は焼く肉を交換する。


「今日はなんの用ですか、クグロフさん」


「クッフッフ、そうじゃ、そうじゃった。

 今日はワシの娘を紹介したくてのう、おい」


 クグロフは後ろに控えた人に呼び掛ける。


「後は若いもん同士で好きにやるとよいじゃろうが」


 そう言うと老人はスススーッと横移動する。

 少し距離を取ると、地面が盛り上がっている場所に登って皆を見下ろした。


 クグロフのマントの中がどうなっているのか気になる。

 移動の際に微かにカタカタと異音が聞こえる。

 パパの本に奇病で失った身体の大部分を魔使石(マジカストーン)で補った人の記録があった。

 彼もそうなのだろうか。

 とか思いながら熱の魔使石に魔力を注ぎ肉を回す。


 娘さんがマントを脱ぎ捨てた、そのマントの背中にはドクロが刻まれた剣の紋章がある。

 やはり笑面虎の仲間らしい。


 紺色のジャケット、その下には白のカッターシャツ、タータンチェックの入った海老茶色のネクタイと短いスカート。

 海老茶色のハイソックスに黒のローファー。

 褐色の肌に深い青の瞳と、ついでに長くて多いまつ毛と濃いメイクの人間。

 大人でも子供でもない雰囲気、僕等より五六才上ぐらいだろうか。

 一番目を引くのは、長いポニーテールにした七色に染めた髪。

 南国の鳥であんな色をしたのがいる、ってパパの本で見た気がする。

 「インコ女」って呼んでもいいぐらい。

 そして数本、背中に剣を背負っている、魔使石(マジカストーン)……じゃない、あれは……。


 インコ女がマリーに近づいて立ち止まる。

 マリーより頭一個分、背が高い。


「あっしー、ルルル(18)だしぃ、よろよろー☆」


「こんにちは、私はロガイ城国こども傭兵のマリース=ノワレです。

 十三歳です」


 ヘラヘラ笑って自己紹介するルルルに、真面目にお辞儀をして答えるマリー。


「ギャハッ、めちゃ知ってるー。

 あっしさー、チャンマリとガチバトする用に超超調整されたしぃ。

 背中見てみ、鋼の剣ワラー☆」


「や、やっぱり!

 でも鋼鉄の剣を造る技術なんてもう残ってないんじゃ……」


 黙れと言われたけれど、声を上げずにはいられない。

 パパの本にもちゃんと書かれていたんだ、鉄の剣を造る技術は途絶えたと。


「クッフッフ、どの界隈でも古い伝統を残そうとする輩はいるじゃろうが。

 教団はその者達を囲ったのじゃ!」


 クグロフが答える。


「魔使石の武器があるのに、なんでそんな事を?」


「クッフッ、娘を見ていればわかるじゃろう」


「あっし、チャンマリみたいなの見てっとイライラする~。

 チャンマリぐらいの時さ、監禁されて手足モギられて子供時代、暗黒だったしぃギャハハー☆

 チャンマリ、モテモテっしょ、赦せねーわ」


 笑えない話を左手の魔使石の義手を振りながら笑って話す。


「チャンマリ、ってなんですか?」


「マリーちゃんの事だよ、きっと」


「私、モテモテじゃないです」


「僕はマリーちゃんが好きだよ」


「そうですか」


 わかってたけど、僕の初恋の初告白は軽く流された。


 そんな事より。

 気になる。

 ルルルが軽く話した酷い過去を見たいと思う気持ちが、何故か湧き上がる。


「あっしの親キルったのもチャンマリだしぃ☆」


「え、マリーちゃん、このお姉さんの親を殺したの?」


「私を殺そうとする人は斬ります。

 特定の人を殺そうとした事はありません」


「あ、なんなんなんなん~?

 あっしの親が人殺しとかありえなくない?」


 ルルルの顔が初めて険しくなった。


「私は人を殺しません」


「はーあ? もうイミフだし、この鳥頭キッズ!」


「鳥頭はお前だ、インコ女!」


「ギャハハ、インコ女って誰だし~? もうグダってダルいの苦手だしー☆

 チャンマリもあっしと同じ、義手後足にしてやるっての!

 この操鉄術でなっ」


 ルルルの背中の剣が魔法で宙に飛ぶ。


 えっ、操鉄術!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る