第47話

「ンンー!? なんか空気ワルイネー」


 そりゃこんな臭い所は始終空気悪いだろ、と思ったけど口には出さない。


 お姉さんがお兄さんにぴったり寄り添う。


「ゼンマルは顔コワイけどヤサシイ人ネー!

 アタイはオリーブ!」


「俺、ゼンマル。

 小さな戦士、助けてくれた、ありがとう」


 ゼンマルがマリーに頭を下げる。


「私はロガイ城国こども傭兵、マリースです。

 カバンにいる子はダルマちゃんです」


「たすけてくれてありがとう、わたしシーマ!」

「オレっちはオリギン! ありがとやで!」

「ボク、プトラ」 「グエン」 「ケイス」 「ラッシ!」 「フェルモ」 「ミーチャ!」……


 子供達は次々に名乗るが、全部は覚えきれん!

 色んな人種に男女、獣人もいるけどみんな痩せてヨレヨレの服を着て汚れていて見分けがつきにくい。


「オオッ、アンタ傭兵ナン?

 すごいナー、ダカラ強いノカー!?」


 オリーブが近づいて来て美少女傭兵の瞳をのぞき込む。


「はい」


 と、マリーが無表情に答えても「すごいナー、すごいナー」と言ってマリーの周りをぐるぐる回る。

 ふと僕と目が合うと。

 僕をランドセルから抱き上げた。


「ワーオ、このコちょうだーい☆

 カワイイ、カワイイ!」


 ええええええっ!?


「あげられません。

 その子は大事なじっけ……ペットです」


 ええええ? 今何か言いかけませんでした?


「ぼ、僕はマリーちゃんの大事な大事な相棒でペットだから……」


 オリーブの胸に抱かれる。

 フワフワの胸が……この子には無い!

 マリーよりお姉さんなのに、硬さはマリーとほぼ同じ。

 やはり栄養が足りてないのかな……。


「ネ、ネ、アタイの髪型、ドウ思う?」


 えー、明るくて元気が良いのはいいけど、距離感ゼロで空気読めないのは頂けない。


「イヒヒヒ、これゼンマルが切ってクレタンヨ!

 イイでショー♪」


 近くで見てわかったのだけど、オリーブの髪が乱れているのはナイフか何かで不器用に切ったからだ。


「大人しくしろ、オリーブ」


「ハーイ」


 ゼンマルに注意されてもニコニコ笑顔で僕をボズンッとランドセルに投げ込むと、再び彼の近くへ寄り添う。

 オリーブのフサフサで太くて長い尻尾がブンブン左右に揺れている。


「いてて、オリーブさんはゼンマルさんが好きみたいだよ、マリーちゃん」


「そうですね。

 それぐらい私でもわかりますよ」


 小さな子供達を見ていたゼンマルが顔を上げる。


「ケガ人、いる! ファム、いるか」


「はい」


 暗闇の中から痩せた背の高い、長い黒髪の少女が現れる。

 オリーブとは対照的に無表情で暗い瞳をしている。


「コイツら、頼む。

 ケガ人、何人になった?」


「二十一人です。

 大ケガを負ったのは三人」


「死んだ仲間、悪い事した。

 オレ、早く浄化団、気が付いていれば……」


 「そんな、ゼンマルさんのせいじゃないです……」


 オリーブがマリーに近づいて、小さい声で話しかける。


「アタイ、あのコ、きらーい。

 ダッテダッテー、ゼンマルに色目使ッテうばおうトスルネー」


「オリーブさんはゼンマルさんのカノジョなの?」


 マリーの代わりに僕が聞く。


「ウウン、ゼンマルは不器用でカタブツだからコレカラー」


 何が『これから』なのか分からないが、色目を使ってるのはオリーブの方じゃないかな。


「これ使ってください。

 足りるかわかりませんが」


 マリーがファムに近づき、治癒テープを三つを出して渡す。

 ファムは静かに一筋涙を流すと、うやうやしく手を合わせてからテープを手に取る。


「あら、ボンゾー、いたノカ?」


 一人で立っていたオリーブが暗がりに話しかける。

 通路の片隅の暗がりの中にうっすらと誰かがいるのが見えた。


「う、うん……」


「外ガ大変ダカラ、家にいた方ガイイのにネー」


 ファムが離れていったので、マリーはオリーブ達の方へ戻る。


「暗いですね」


 そう言うとマリーは光の魔使石を出して明かりを灯す。

 暗がりの中には太った少年がいた、年齢は僕と同じくらい。

 そしてその顔は。

 アザだらけで腫れあがっていた。


「わわっ、ここにもケガ人が!」


「ボンゾー、家が中級市民。

 でも父親が乱暴、だからここに逃げてくる」


 僕が驚くとゼンマルが話してくれた。


「ボンゾーの家、ワルい大人の溜まり場にナッタネー」


「う、うん、そう、そうなんだ。

 アイツらが来るとボクを追い出すんだ……」


 ボンゾーがしくしく泣き出す。


 僕もママに悪い恋人が出来ると、殴られてよく家を追い出されていた。

 だからこの少年には何となく親近感を覚える。


「ボンゾー、後でファムに顔、見てもらえ。

 マリース」


「はい」


「街、戻る、危ない。

 この国出たい、なら、方法ある」


「ここなら下流に行けば、排水の出口がありますね」


「ちがう、出口の施設、兵がいる」


「今の王は水の浄化をしていないと聞いています」


「施設、動いてない、でも兵が見張っている」


「そうですか」


「これ、どういう話をしてるの? マリーちゃん」


 話が見えないので、会話の区切りのいいところで聞いてみる。


「前王までは排水も多少浄化して川へ流していたのです。

 今の王は浄化施設を止めました、というより施設がまともに動いていない事を知らないのだと思います」


「オー、マリースちゃん、モノシリネー」


「つまり下流に行けばすぐ出口ってわけじゃないんだね。

 ……ん、ここの聖地って湖って言ってなかった?」


「そうです」


「聖地に汚水を垂れ流してるの!?」


「汚水は下流の川に流してます」


「湖より下ならオッケー、みたいな考え?」


「そうです」


 確かに聖地を汚しているワケではないけれど。

 この国は色々な所が綻んでいる。

 王様の頭が悪いと、こうも乱れるものだろうか。

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