第30話
コルセットをしてないのでコートの前が大きく開いている。
周りの様子がよく見えた。
時々外が見える通路がある。
山の稜線に隠れつつある太陽の方角で北側が崖になっているのがわかる。
僕の方向感覚が正しければ南に門があり、西に見張り台。
「子供の案内は部下に任せられなくてねー。
なんせ犯罪者ばかりで自制が効かないヤツが多くてねー。
商品を傷つけられたくないんでさぁ」
反応を得られなくても笑面虎は話を続ける。
イワンは守ってるつもりなのか、マリーの肩を抱いて歩く。
なんて馴れ馴れしい!
「まあ高級ホテルとまではいかないけどさー。
良い買い手がつくまでちゃんと面倒みるよー。
だから良い子にしててよー」
洞窟をかなり降りたところに牢屋があった。
太い魔使石の格子の間に細い格子が張られて、マリーの細い指を出すのがやっとの厳格な柵がはまっている。
それでも外から中の様子がよく見える。
笑面虎が小さな扉を開ける。
「さあお嬢様、中へどーぞ」
マリーの隣の牢屋へイワンを入れると笑面虎はニコニコしながら鍵を弄ぶ。
「鍵は僕しか持ってないから。
この見張り達が入ってくることはなから安心してね、じゃあねー」
彼がいなくなると、見張りの下っ端盗賊二人が副隊長の陰口を叩いて笑い合う。
マリーが古いベッドに座る。
寝具は以外にも柔らかく、清潔で整えられていた。
奥には低い壁で隠れたトイレ用の穴がある。
「この状況どうするの、マリーちゃん?」
聞いても返事が無いどころか置物のように動かない。
じっと前だけ見ている。
見張りの盗賊二人はこちらの牢ばかり見ている。
そりゃ見張るなら美少女の方がいいよね、砦の中に女性がいる様子は無かったし。
「大丈夫、マリースちゃん!?
ぼ、ボクがなんとかするからね!」
イワンが気をつかって声をあげると。
「うるせえ、このガキ!
黙ってその辺座っていろ!」
見張りが隣の牢へ向かい、柵をガンガン蹴っている。
「おえっ」
マリーが身体を捻って口を押える。
「どうしたの、大丈夫?」
その口からニョローンと長いものが垂れ下がる。
モチを吐いてる? 舌? 舌ってこんなに長かったっけ?
混乱しながら見ていると、それは金色だと気が付く。
ベッドの上に盛り上げられた金の塊を腕輪にすると、素早く袖の中に隠す。
「身体検査をされると思って、口の中に隠していました。
呼吸がしづらくて苦しかったです」
「そういえば、何も調べられなかったね」
「何を隠し持っていても、子供だから何も出来ないと思うのでしょう」
「成長が止まっていてよかったね」
「これが奴隷商人なら隅々まで調べられます」
「なにそれ、もしかして捕まった経験があるの?」
僕の質問に答える前にマリーが背筋を伸ばす。
それで僕は重く力強い足音が近づいているのに気が付いた。
「あっボス、おつかれッス!」
見張りが頭を下げる。
大男のホルヘが姿を見せた。
顎で指図すると見張りは牢から離れていった。
「おい、娘」
厳つい顔に似合う低く良く通る声。
よく見るとなかなか整った顔をしている。
大きな体躯と筋肉が装備だと言わんばかりの姿は畏敬さえ覚えるほどだ。
僕は半泣きになりながらベッドの陰に隠れる。
「靴を持ってこっちに来い!」
言われた通りブーツを脱ぎ、それを持って柵へ近づくマリー。
身長差がありすぎてホルヘの高さはマリーの三倍はあるように錯覚する。
柵の入り口の横にある小窓を開くホルヘ。
「靴をよこせ」
ブーツを受け取ったホルヘは大きく息を吐き。
マリーのブーツに鼻を突っ込むと、深く中のニオイを吸い込んだ!
「んほおおおおおおおお、なんと甘美な香り、汗と泥と何かが混じりあった、素晴らしく崇高な香り。
小さな足から分泌される体液を何日も吸い込んだこの中はまさに至高の芳香剤!
なんて愛らしくてなんて汗臭くてなにか血のニオイもするが、ああもうこれはまさに少女の足の楽園……」
へ、変態だあああ、変態マッチョだあああああぁぁぁぁ!!
だらしなくアヘ顔をしながら身をよじり、ブーツの香りの称賛を続けるホルヘ。
あんな男を怖がっていた自分が、逆に恥ずかしくなってきた!
大男は何度も美少女の足の香りを嗅ぎ尽くした後、厳つい顔に戻って姿勢を正す。
「この靴はもらっておく」
マリーはただ無表情に何の反応も見せずに立っていた。
ブーツを大事そうに抱えてホルヘは去った。
イワンの靴も嗅ぎに行くんじゃないかと少し期待していたが、それは無かった。
少女の靴が好きなホルヘと少年少女の靴が好きなホルヘ、どちらがより変態なんだろう?
「マリーちゃん!
あんな変態男にニオイを嗅がれて気持ち悪いよね!!」
「私のメイドさんがよくやってるので、慣れてます」
んん? マリーの言葉に理解が追いつかないでいると。
「さあさ子供達、食事でさぁ。
男所帯なので味は保証できないけどねー」
ボスと入れ替わりに見張りを連れて、副隊長自ら2つのトレイを運んできた。
パンひとつと野菜を適当に煮たものと、肉を適当に焼いたもの。
コートに隠れながら、マリーから少しずつ分けてもらって食べる。
どれも味がしなかったが、マリーにはちょうど良かったみたい。
食べ終わると、体力温存の為と言ってベッドに横になるマリー。
五秒で眠りに入る。
どれくらい時間がたったかわからない。
僕もウトウトとまどろんでいたからだけど、二~三時間くらいだろうか。
地響きと盗賊共が騒ぐ声と鐘を叩く音で目が覚めた。
「おい、ヤツらがきたぜ!」
「おう、ヒマだから見に行くか。
どうせまた、南門の生贄台だよな」
「ここの見張りはどうすんだよ」
「ガキは朝まで寝てんだろうよ。
幹部達はみな上で仕事するだろうしな」
「ガハハ、そうだな、少しぐらいはいいか。
休憩だ、休憩」
見張り達は笑い合いながら牢屋から離れて行った後に、少女がゆっくり体を起こす。
「動く時が来ました」
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