五の肉 盗賊団なんていらない
第28話
マリーと僕が馬車に乗ると、馬車は荷馬車列の最後尾に着ける。
キャビンの中は上半分が透過魔法がかかっていて、全方位で外が見えて明るい。
それ以外は何もなく質素。
「モンヤ商会の馬車を見て、奴隷商と間違うなんてな。
もっと頑張って有名にならんとなぁ。
ワシは会長のカナワン=モンヤ、コイツは5番目の息子、イワン。
サロ城国からアカント城国へ、急な依頼で荷物を運んでいるところだ」
「乗せて頂きありがとうございます。
私はロガイ城国こども傭兵、マリース=ノワレ。
こっちはペットのダルマちゃんです」
「獣人の子供のダルマです。
よろしくー」
僕は膝の上に置かれたランドセルの中から手を振る。
正面の座席にはカナワンおじさんが座り、マリーの横にイワン君が座っている。
モンヤ親子は幼い美少女傭兵に興味津々で、僕の事はあまり気にしていない。
「ロガイか、すまんな、手前のアカントまでしか送れなくて。
どうしてあんな所歩いていたんだね?」
「傭兵ですから。
依頼の帰りです」
「こども傭兵の事は聞いた事がある。
しかしこんな子供を仕事をさせるなんてな、泥だらけじゃあないか!
ロガイの王様もなにを考えているんだかなあ。この辺で魔獣が大暴れしてるって話でな。
昨日はコノガの街で足止めを喰らっちまって大変だったんだ。 しかしあの街の聖地が……」
おしゃべり好きの父親を無視して、イワンが声をかける。
「マリースちゃんは何歳?」
「13です」
「あ、ごめん。
もっと下の子だと思っていたよ!
ボクは15歳、よ、よろしくね」
すこしソバカスのある誠実そうな顔の青年は、じっと僕の飼い主様を見つめる。
しばらくそうしてから、顔を赤らめて慌てて話す。
「あ、あの、お茶があるけど飲まない? マリースさん」
「いただきます」
どんな子供だってわかる、イワンが可愛いマリーに好意を寄せてるって。
でも残念、マリーにはその気持ちは届かない。
だって恋する心なんて無いんだから。
みんなでお茶を飲んでいると、キャビンの戸がノックされた。
「私です、ご主人」
キャビンの中からだと、ノックをした軽装で黒のマントを羽織る傭兵がよく見える。
黒のマッシュルームカットの華奢な男は何が可笑しいのか、ずっと笑顔だ。
カナワンおじさんが会話のために戸を開けると、器用に乗馬しながら首を突っ込んできた。
「おやおや、ずいぶんカワイイお客さんだねえ」
透過魔法は中から外は見えるが、外からは真っ黒なキャビンにしか見えない。
「何か用かね」
「これから山の中に入るのでスピードあげますよ。
お気をつけくだせえ」
ずっと笑顔のままカナワンおじさんと話をすると、再びマリーに顔を向ける。
「私は傭兵部隊のリーダー、笑面虎でさぁ、よろしく」
戸を閉めると、笑顔のまま馬を先頭の方へと進ませた。
「ショーメンコ? 名前かな、マリーちゃん」
「あだ名か何かですね。
傭兵は本名を名乗らない人も多いですよ」
「ふーん。
それよりもさ……」
僕はマリーの顔に身体を伸ばして小声で話す。
「なんで素直に馬車に乗ったの?」
「おじさんとイワンさんには何の霊も憑いてなかったからです」
「あーなるほどー。
前みたいに子供の霊が憑いていなかったから」
「でも今はすこし後悔してます」
「はぁ!?」
「おい、道が違うぞ!」
カナワンおじさんのイライラした声で目を覚ます。
最初は通り過ぎる景色を楽しんでた僕だったけど、いつの間にか眠っていたらしい。
ランドセルの底から起き上がって顔を出す。
おじさんはキャビンの戸を開けて、笑面虎と話をしている。
山の木々は夕焼け色に染まっていた。
「ええ、こちらの方が近道で安全なんでさぁ。
すぐに目的地に着きますので、それまでおくつろぎを」
強引に戸を閉められ、バランスを崩したおじさんはよろけて座席に腰を落とす。
「だから止めようって言ったんだよ、パパ。
傭兵ギルドを通さずに傭兵雇うのは!」
「ええい黙れ!
いいか、商売人ってのはケチってなんぼなんだ、ワシはこれまでそれでやってきたんだ!
あの値段でしかも後払いなんてそうそう無いぞ」
なるほど、商会会長様の乗る馬車はこんな質素なものかと思ったけど。
装飾や内装をケチっているのですねえ。
「いくら急な仕事だからって不用心過ぎだよ!」
「野良傭兵さんですか?」
マリーが珍しく会話に割り込む。
貧乏揺すりして苦い顔で目を閉じたおじさんの代わりにイワンが答える。
「うん、そうなんだよマリースさん。
急で大きな仕事が入って、傭兵ギルドに警護を依頼したら人を集めるのに日がかかるって。
一応ギルドに依頼して建物を出たら、色んな人が仕事を請けるって声をかけてきて……」
「ギルドにも悪い人はいますが。
この状況はアウトですね」
マリーがそう言って振り向く。
御者の横にはいつのまにか傭兵の一人が座っていた。
笑面虎以外の傭兵は皆、顔の隠れるヘルムを被っていた。
「マリーちゃんなら七人の傭兵ぐらい簡単に倒せるでしょ。
バジリスク全滅より楽だよね」
僕はまたマリーだけに聞こえるように小声で話す。
「よく傭兵さんの数を数えましたね」
「えへへー、僕もただ外を眺めて遊んでた訳じゃないよ」
「でも今は何もしません」
「え、どうして?」
「私は殺気を向けてくる人としか戦いませんよ」
「ん? うん? どういうこと?」
「簡単に言うと、殴ってこようとする人がいたら戦います」
「いや、でも!
アイツらすごい怪しいんだよ!?」
「そう言われましても。
それと傭兵は八人です。
前の馬車にここの従業員さんが沢山乗ってます。
その中にも傭兵さんが入りました」
「その馬車の中に兄さん達が乘っているんだ」
途中から普通に話してたのを、興奮した僕は気が付かなかった。
馬車の話を聞いたイワンが最後に会話に入ってきた。
心配そうな顔をして。
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