一の肉 余計なお世話なんていらない
第2話
少女は白いコートを羽織り、革のコルセットを装着して、そこにランドセルとポーチをセットする。
そして耳の後ろから緑のメッシュが入った銀の髪を後ろに結うと。
無理やり僕の口に水筒の水を流し込みながら平淡な声で言う。
「熱と痛みと身体のアザはそのうち無くなります、たぶん。
死ななければ、ですけど」
高熱と体中の痛みに苦しむ僕を、空っぽの皮のランドセルに詰めた。
生まれたての赤ちゃんみたいに柔らかな布に包まれて。
そして歩きはじめる。
……たぶんって、また死ぬ可能性があるのかー?
言葉にする元気も無く、僕は開きっ放しのランドセルから景色を眺める。
古く汚れた黒い家と荒れ放題の庭。
僕が生まれて成長して、そして死んだ場所から初めて離れるのだ。
「ライアン、ライアン。
どこへ行くんだ? 身体が弱いんだからあまり遠くに行くなよ」
ママ自慢のバラが咲き誇る庭から、懐かしい姿と声が僕を呼び止める。
――パパだ。
「パパー、ライアーン!
晩御飯だから帰って来なさーい」
裏戸が開いて出て来た女性。
それは優しかった頃のママ。
パパに近づくとお互い微笑んで寄り添いあう。
全て高熱で朦朧とした意識が見せた幻覚と幻聴、過去の記憶。
パパが死ななければずっと優しいママだったはず。
男を連れ込んだり、怖い顔をして僕をぶったりしなかったはず。
「さよなら、パパ」
それは声にならず、ヒューヒューとした吐息になっただけ。
僕の身体は再構成中なんだそうだ。
高熱と痛みはそのせいらしい。
人の身体を繋ぎ合わせて再構築する魔法?
世の中にはそんなトンデモない魔法が存在するのか!?
しかも推定十歳程度で、僕より年下に見える少女が?
村から出た事が無い僕にはそれが普通かどうかは判断できない。
少なくともパパの蔵書にはそんな記録はなかった……。
……。
…………。
春の薫りを含む涼しい風を頬に感じて、目を開けた。
日陰なのに光が眩しく感じる。
白い少女は森の中でしゃがみこんで骨付き肉を食む。
僕はそれを見上げている。
「あ、目が覚めましたか」
どうやら少女の膝の上に仰向けに寝かされているようだ。
背中が温い。
「ぼ……ぼく……はがっ」
声が出せるようになったみたい。
でもすごく話しづらい、口の周りが重いというか。
「どっどれ、くらい……気を、うちなって、た?」
「三日三晩です」
僕にとっては一瞬の暗闇だったがそんなに経ってたのか。
そのおかげか、ぐ~~~~、熱も痛みも、ぐ~~~~、わずかにしか、ぐ~~~~、感じない。
「お腹、減ってますか?」
「へっ、へった、へった! た、たべ、もの!」
僕の必死の懇願が届いてないのか、少女はまた肉を食んだ。
なんて酷い女なんだ! と思った次の瞬間。
ぺっ! と少女は咀嚼した肉を右手に吐いた。
それを僕の口のほうへ近づける。
「ちょ、きたな、ばっち、い!」
「歯は生えてきてますが、まだお腹の中がちゃんと出来てないかもしれません。
柔らかいものを食べたほうがいいです」
僕の身体を再構成した本人にそう言われると反論はできない。
それに今は食べれるモノだったら何でもいい!
僕は素直に口を開けた。
久しぶりの肉、久しぶりの食事!
味が無いのはしょうがないか。
それでも再び食べ物がお腹に入る喜びを噛みしめる。
少女が咀嚼して右手に乗せたモノを僕の口に入れて飲み込む。
お互い無言でその行為を数回繰り返すと。
「今はこれぐらいにしましょう。
食べ過ぎてカバンの中で吐かれても困ります」
「う、うん」
もっとお腹いっぱい食べたい。
でも身体が満足したのか猛烈に眠くなってきた。
一度目を閉じると、そのまま暗い睡魔の中に落ちていった。
「起きてください」
少女にゆり動かされて目を覚ます。
また膝の上に寝かされている。
辺りは真っ暗なのは日が暮れたのだろうか。
今度用意された食事は、コップに入ったドロドロの肌色のスープ。
口の中に入れると、ザラザラと砂のような感触があって気持ち悪い。
そして。
「ま、マズい!」
「我慢してください。
今は肉よりこっちの方が身体にいいはずです」
「……は~い」
スープを飲み終えるとまた眠りにつく。
起こされてスープを飲みまた眠る。
何度か同じ事を繰り返して。
何日目だろう?
下半身の不快感で目が覚めた。
さらにすごい悪臭!?
「ねえ! ちょっと、助けてぇぇ!!」
狭いカバンの中で暴れていると、首根っこを掴まれて引っ張りだされた。
「クサいですね」
少女はそう言うと、僕を地面に押し倒した。
それから僕の下半身をいじり始める。
「わー、や、やめてよーエッチー!」
「汚した服を切ってオムツを作りました」
わぁ、僕の身体からひり出されたモノを美少女が持っているー。
わぁ、オムツの汚れが赤褐色で、下血したのかと思ったよー。 その汚れはなにー?
わぁ、僕の身体が黄金色の毛で覆われているよー。
わぁ、僕の手足が短いよー。 わー、わー!?
「ねえ!
鏡、鏡持っている!?」
オムツを山中に投げ捨てる少女に訪ねる。
前に比べてかなり普通に話せるようになったなぁ。
「ありますよ」
少女は腰のポシェットの一つから小冊子の大きさの薄い魔使石(マジカストーン)の板を取り出す。
僕は立ち上がり、それに触れて魔力を流し込む。
今の僕はどんな姿になったんだ!?
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