[レイアウト]

ただけん

第1話 目覚め

「君は重罪を犯した。このまま行けば確実に死刑だろうね」

 昼間なのに暗い雰囲気で包まれた部屋。

「でも、我々は君の能力を高く買ってる。

この契約書にサインさえしてくれれば、我々が君を雇用し、死刑から逃してやろう」

 机上に置かれた一枚の紙をぼんやりと眺めた。

 ペンを取り、ささっと自分の名前を書く。

「『間宮レイ』…確かに。これで君は死刑を免れた。それと同時に我々の所有物になった。さて、明日からすぐ"仕事"に行ってもらう」

「おい、彼女を案内しろ」

 その男の言葉通り、後ろでドアが開き、振り返ってみると、スーツを着た男たちが手招きしていた。

 ドアを抜け、長い廊下を歩く。嫌に靴音が響く。コツ…コツ…と終焉に向かう鼓動のように。


⚪︎ ⚪︎ ⚪︎


 …もう朝か。最近は夢ばっかり見る。睡眠が浅いのはよくないことだ。

(しかもまだ朝4時だ…)

 特殊部隊の朝は意外と遅い。重大な事件でも発生しない限り、8時起きでも大丈夫なのだ。

(まあ、その代わり仕事のたびに命懸けなんだけど)

 もう一眠りしよう…。

[全隊員に告ぐ。玉響市浜並区にて大規模テロが発生。至急出動せよ]

 …まあいっか、もう一眠りしよう。


「レイ!起きて!」

 目を開けると見知った顔が。

「…どーしたんですか響子先輩」

「どうって…聞いてなかったの!?出動だよ!?」

 …こうゆうときは、大体番号が前の方の優秀な隊が全部やっちゃって、無駄足になることが多いから嫌なんだよなぁ…。

「とにかく準備して!ほら、あからさまに嫌そうな顔しない!」

 ため息を吐き出し、よろよろとベッドから起き上がる。


 顔を洗い、いつものワイシャツに腕を通し、ショットガンとマシンピストルを持ち、ネクタイを締める間も無く車に飛び乗った。

「氷室、現場まで直行で。幸い一般の通行が規制されてるから速度出していい」

「はいよ、準備いいね?」

 運転席には氷室さん。うちの部隊の運転担当だ。

「間宮、銃は?制服は?」

「響子先輩、心配しすぎ…あ、替えのマガジン忘れた」

「ほら!!」

「時間ないから行くよ。あと君なら銃なくても制圧できるだろ?」

「…銃あった方が絶対楽」


 部隊の制服。ぱっと見はトレンチコートみたいだが、防水の他に防刃、防弾機能がついてる。しかも軽い。

 ものすごく機能的だけど、ちょっと動きにくいのが難点。この制服は生存率を上がるためだろうけど、生存率が上がった気はしない。

 実際ここ数年の死亡率は上がりっぱなしだって響子先輩が言ってた。


「ここだな、着いたよ」

 氷室さんが運転席から声をかけてくる。

 大型ショッピングモールか。最近多いな。

「氷室さんは?」

「いつも通りここで待ってるよ。僕は戦闘向きじゃないからね」

 氷室さんは一応戦闘員ではあるけど、戦っているとこを見たことがない。

「間宮、こっち!」

 響子先輩に急いでついていく。


 入り口だったであろうガラス戸はすでに粉々だった。駆け足で中に入る。ガラス片がジャリジャリ鳴った。

「本部から…今回も犯人は「observer」だって」

 響子先輩が独り言のように呟く。

 「observer」…観測者。厨二病を拗らせた男子中学生みたいな名前。何が目的なのか全くわかってない。ただ、金は潤沢にあるようで、装備は粗悪品ではなく、軍が使うような最新鋭のものばかりだ。

「間宮、わかってると思うけど、すでに作戦区域だから」

「常に接敵を警戒、ですよね。わかってます」

 銃弾なんて当たらなければどうってことはない。あと、"撃たれる前に撃つ"が基本。

 響子先輩は優しいから、できないだろうけど。

 中はやはり血塗れだった。民間人の死体に混ざって部隊の人たちの死体がちらほらある。ほら、やっぱり生存率は上がってない。

 他部隊は見当たらなかった。

(やけに静か…人もいない…まさか!)

 振り返った瞬間、3階くらいに人影が見える。吹き抜けを忘れていた!

「響子先輩!」

ズドンッ

 鮮血。咄嗟に先輩を押したから銃弾は掠っただけで済んだ。さらに私も重心を動かしたせいで倒れてしまったが、狙撃手の位置はわかる!

ババババッ!!

 マシンピストルを乱射するが、3階の床を削った程度で狙撃手はノーダメージだ。

「チッ…逃した…」

 あ…今気づいた。私は先輩に覆い被さるように倒れていた。どうりで顔に当たる感覚がこんなに柔らかいと…。

 すぐに体を起こす。

「……先輩大丈夫ですか?」

「え…あ、うん…」

「気をつけてくださいね、ここの吹き抜けは射線がよく通ります」

 先輩に手を貸しながら、自分のマシンピストルをガーターに戻す。とりあえず、3階まで駆け上がるのが先か。そういえば。

「先輩…」

「何?」

「…デカくないですか?」

「任務に集中して」


⚪︎ ⚪︎ ⚪︎


「エスカレーターくらい動いてよ…」

 非常階段を登りながら呟く。常に銃を構えながらっていうのも疲れる要因だ。

「他部隊が全く見当たらないのが不気味だな…全員が死んだわけではあるまい…」

 響子先輩がブツブツ言っていた。まあ、それなら2階3階から本番ってことか。


 2階のドアの前に着いた。

 嫌に心臓が高鳴る。いくら戦闘をしても人間としての本能がある限り、緊張はするものだ。一度深呼吸をして、再びショットガンを構える。

「あ、本部から」

 響子先輩が手で私を制しながら言った。

「作戦は成功で終了…帰還せよ…」

「じゃあ私たちが見たあれは?」

 響子先輩が自分の頬にできた傷に触れた。もちろん手に血がつく。

「私は確かに撃たれた、あれは残党?」

「第3の勢力の可能性も捨てきれないけど」

 でも、それは私たちが心配する問題じゃない。本部が考えることだ。

「…先輩、帰りましょう」

「ええっ?でも、まだ…」

 先輩が言いたいことはわかる。でも、私にとって命令は絶対。命令に重大に違反したら、その時は…


「先輩、帰りましょう。本部からの命令ですから」


 気づいた時には先輩の腕を引っ張っていた。


⚪︎ ⚪︎ ⚪︎


「氷室」

 運転席でスマホをいじっていた氷室さんが顔を上がる。

「…おや、今回は戦闘したの?」

「少しね」

 先輩が口数少なく答え、車に乗る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る