怪鳥三題

蘆 蕭雪

鵜嚥【うのみ】


 川の中州に、鵜のような鳥が佇んでいるのが見えた。

 酒精のせいか、と怪訝に思いつつもたたらを踏んで立ち止まる。

 欄干に手を措き、蛤碁石の月夜に耀く眼下の川面を眺める。橋に並んだ街燈が、八角の雪洞の如く光を放つ酩酊に泥濘ぬかるんだ闇。宴会の後、三々五々と別れた同僚から逸れての帰路のこと。川面も凪いで、銀盆の月へ向かって蹴立てたように漣が立つ。漣は、小魚いさなに似て、月光を細片に砕いて皓皓とすべる。光をはすへ追う、と件の川鵜が中州に蹲っていた。黒い翼、また黄金きんの嘴、細くくびれた首は川鵜であろう。中州、と呼んでも浅瀬に覗いた砂地である。冬場で水位も下がり、陸が幾らか剥きだして小島を成した。大和絵の、槍霞のように繋がり、月夜に照れば白砂の島である。鵜は、静かに佇み、魚籠びくから魚群なむらを零すように吐いた。真に小魚か、細漣さいれんか、銀の光斑が水面に跳ねて躍る。その時、酔った頭で、両手を筒に遠眼鏡とおめがねを作って覗いてみたのである。すると川鵜は、歌麿の美人画に見返る人の姿をしていた。後姿は、襟足ばかり白く、撫肩から黒の小袖の翼を垂れる。細首を反り、くびれた腰をあでにしならせた青年の。黒も黒、枇榔子黒びろうじぐろの、着流しの裾を端折って細い両脚も露白あらわだった。青年が、遠眼鏡の中に翼を畳んで口元に袖を触れる。

 細漣の、瀬を流離さすらう銀砂子は、鵜が嚥下した魂であった────ように思った。

 と、不意にも、川瀬の小魚の群れが足元を逃げるように耀いた。

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