第2話

「おはよう、さくら」


頭を3回撫で、おはようの言葉で彼女の電源が入る。

電源を切る時は、同様に頭を3回撫でておやすみと言うだけのシンプルな設計だ。

さくらは私がつけた開発中の仮称のようなもの。

デフォルトネームではなく、初恋の幼女の名前をつけるも良し、自分の愛しい娘につけるも良し。


セットアップの段階で任意の名前を設定すると、それが彼女の名前として認証される。

幼女に彩られた素晴らしい毎日を送ってもらいたい。


「おはよう、お兄ちゃん」


目に映る人間の性別を判断する機能は正常のようだ。

私のような中性的なイケメンもきっちり判別できるのは、充分に合格点と言えるだろう。

片言とは無縁の滑らかで可愛い音声は、支援者の方々、そして私の努力と実力の賜物だな。


「お姉ちゃんもおはよう」


ブスでも性別がきちんと判別できる。

私のプログラムの優秀さの賜物だ。


性別によってお兄ちゃんとお姉ちゃんを使い分けるが、名前を呼んでもらいたい場合は、任意の名前を学習させることで好きに呼んでもらえる嬉しい機能も搭載している。

なお、人間を正確に認識できるのは2人までだ。


さくらの声は、助手が録音した声を私が加工したものを採用している。

すぐに取って代わられるアイドル売りの下賎な声優などに金を払って起用する理由もない。


開発費だって安くはない。

むしろ金策に困ったくらいには高い。


私の技術にかかれば、年増の声もリアルな可愛らしい女児ボイスに変換できるのだよ。

削れる要素は削らないとやってられない。


「めっちゃ可愛いですね!声とか、特に声とか!」


「そうだな。おまえの声を編集する地獄のような日々が報われるほどには可愛いな」


「で、そもそもいくらで売るんですか?」


「8000万で考えている」


「いや高すぎるでしょ!買うのいるの!?」


「案ずるな。既に売約済みだ」


「あたしらが言うのもなんですけど…闇深いですね」


「あのぉ、さくら、お水飲みたいな」


これは貯水タンクの水が不足していることを知らせる音声である。

別に水が燃料なわけではない。

水で34キロの物体を喋らせて動かせるわけもない。

重量の多くを占めるバッテリーが動力だ。


「おいブス、給水だ持ってこい」


「ブスじゃないから持ってきませんー」


「じゃあちょっとだけ可愛いババア、水持ってこい」


「なかなか素直じゃないですか」


妙に嬉しそうにしながら助手が2リットルのペットボトルを持ってくる。

中身はただの水道水だ。

それを手渡されたさくらは、一気に口から注ぎ込んでいく。


「やっぱりお水が最強だね。鉄臭い水道水が世界で一番おいしい飲み物だよ」


与えるものは、お茶でも牛乳でも、ジュースでもアルコールでも問題はない。

だが、内部の浄化装置に負荷がかかるので、与えるものは水を推奨している。


好意的な相手には、好きなものを与えてあげようとするのが人間の心理というもの。

説明書も読まないでゲームを始めてしまうタイプにも配慮しているというわけだ。


「そうだなさくら。なんだかんだ水が最高に美味いのだ」


「でも、おしっこしたくなっちゃった」


貯水タンクの最大容量は2リットル。

これに達すると発する音声である。

この意味はそのままだ。

さくらは単なる幼女型のお喋りロボットではない。


可愛い幼女のおしっこを飲みたいという夢を叶えてくれる幼女型聖水器なのだ。


そして、私の幼女しか愛せない悲しみを受け入れてくれる存在でもある。

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