悪人、愛を知る

一年中数の子食べたい

旅立ち編

第1話 悪人が死んだ日

産まれた。


それは随分と長い悪夢だった。


両親に自身の意志で逆らい、悪の組織に加入し、随分と最悪の所業を繰り返した。人を騙し時には焚き付け、争いを助長し自らの利益のみを善しとした。


別に金に困っていたわけでもない。特殊な生い立ちがあるとか、親の愛を受け取れなかったと言うわけでもない。寧ろ人より恵まれていたと思う。


言い訳をするならば、『だからこそ』だろうか。愛には飢えていなかったが、特別な『何か』を求め続けていたように思う。


人とは違う環境。

人とは思えない能力。

人を超える世界。


そんなありもしない空想を追い求め、随分と多くの罪もない人達を傷つけた。


だからこれは、罰なのだと思った。


正義に討たれ、得体も知れぬチカラがある世界に産み落とされ、気持ちが悪いと魔の樹海の奥に捨てられた時も。


魔が蔓延る地獄の中で何の偶然か1週間も生き延びてしまった時も。


その果てに舌に不死の猛毒を纏う蛇に全身を舐められ生き地獄を味わいながら一本ずつ指を喰われていった時も。



当然の報いだと受け入れた。



ーだからこそ、唐突に訪れたその救いを、最初は疑った。


目の前で泡と消える蛇の怪物。

その奥に光る神々しい輝き。

右手をこちらに翳し、慈愛の微笑みを見せる女神。



自身が地獄から救われたこの日を、私は生涯忘れることはないだろう。



そして、私は生まれたのである。


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