29. 研究所
お腹を満たした後は、街を散策しながら目的地であるサント博士の研究所に向かった。
ずいぶん歩いているのに疲れないなと思っていたら、踏み込むたびに地面が沈んで衝撃を吸収してくれている。
首都に住んだら他には住めないのではないだろうか。
魅力的なお店や建造物たちに後ろ髪を引かれながらも目的地へと進んでいった。
「ここだな。」
テオが手紙に同封されていた地図を見ながら周りを見渡して確認する。
街の中心から少し離れた工場が立ち並ぶ一角にその研究所はあった。
高さはなく横に広い贅沢な構造だが、一見すると周りの工場と見分けがつかない。
おそらく廃工場を改装したものなのだろう。
壁は新しく塗装をされているが、古さを隠しきれてはいなかった。
正面入口を探してから、そこに設置してあった簡易的な呼び鈴を押すと、中から助手らしき人が出迎えてくれた。
「手紙を送ったテオと言います。サント博士に会いに来ました。」
そう言ってテオが手紙を渡そうとすると、大丈夫ですよ、とその手を遮って僕たちを扉の中に通してくれた。
中に入ると、扉の向こうは吹き抜けのホールのようになっており、そこから分岐するように、左右に廊下が伸びている。
わずかに薬品の匂いが漂っていて、低い振動音もどこからか響いている。
「こちらです。」
案内されるがままに奥へ奥へと進んでいくと、古い扉が見えてきた。
助手が扉をノックしてから扉を開ける。
「サントさん、お連れしました。」
堂々と入っていくテオの後ろに隠れながら、ゆっくりと部屋に入る。
部屋の向こうでは、白髪の少し背の丸まった老人が椅子に座ってこちらを見てにこやかに笑っていた。
「はじめまして、テオと言います。こっちは研修生のニールです。」
「はじめまして、ニールと言います。よろしくお願いします。」
「よく来たね。こんなに早く会えると思わなかったよ。」
サントが楽しそうに笑う。
「それじゃ、早速案内しようか。二人の話は移動しながら聞かせておくれ。」
それから、僕たちはサントに付いて研究所を回った。
研究所は広く、研究内容によって部屋が分かれているとのことだ。
特定の分野に集中するのではなく様々な分野をチームごとに研究しているとは、さすが高名な研究者といったところだろうか。
「ここは素材の融合を研究しているチームでね。基本的には、素材をあの分離炉を使って......」
それぞれの部屋をのぞきながら、簡単に説明をしてくれる。
興味がある内容があれば、後日詳しく教えてくれるそうだ。
かれこれ二時間ほど案内をしてくれていたように思う。
すべての部屋を案内してくれたのか、最初に入ったサント自身の部屋に帰ってきた。
「どうだったかね?君たちの知りたいことはあったかな?」
「大変勉強になりました。私の専門は......」
テオとサントが専門的な話を始めてしまった。
最初はまじめに聞いていたが、僕の興味はサントの部屋に飾ってある様々な巨骸素材に移っていた。
張り直されたであろうおしゃれな壁のそこかしこに見たこともない素材が飾ってある。
大事に箱の中に入れられているところを見ると、相当貴重なものなのだと思う。
あのきれいな紫色の石は、もしかしたらあの有名な第三階層のものだろうかと眺めていると、不意にサントに声をかけられて心臓が飛び出しそうになる。
「あの石が気になるのかね?」
「......は、はい。あまりにきれいなので、もしかしたら第三階層のものなんじゃないかと思って......」
「いい目をしているね。君の言う通り、あれは第三階層である紫筋層のものだよ。ちょっと触ってみるか?」
僕が驚いていると、箱の中から取り出して僕の手に乗せてくれた。
「この石は私が初めて第三層を採掘したときの記念のものなんだ。もっとも、採掘したのは私ではなくて、一緒に採掘作業を行っていた採掘作業員だがね。」
それはそうだろうと思う。
研究員は自ら採掘作業を行うことはなく、採掘するのは調査団の採掘作業員だからだ。
「なんだか懐かしいな。君を見ているとこれを採掘した彼を思い出してしまう。なぜだろうね。」
サントが悲しそうに笑う。
「最近は会われてないんですか?」
「もうずっと会ってないよ。残念ながら何年も前に、採掘場で行方不明になってしまったんだ。」
何も考えずに興味本位で尋ねた僕は、サントの一言に頭を殴られた。
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