第1話

何度も滑り落ちながら井戸の中から這い出たときには、指はもう血塗れになっていた。

 一部は爪が欠け、または剥がれ落ち、痛みで指先の感覚が鈍い。


 けれど、その痛みを気にする暇など無かった。


 焼け焦げた匂いが鼻を刺す。

 黒煙と共に舞い上がる灰が、まるで雪のように降り注いでいる。

 見る影もなくなった、生まれ育った村。


 目の前には、真っ白なむくろがあった。


 突然村を包み込んだ赤い炎に焼かれた、かつて人だったもの。

 肉は綺麗に焼かれ灰となり、舞う灰の中に紛れてしまったのだろう。

 初めて見る人骨はあまりにも白く、降り注ぐ黒雪の中でも埋もれることなくその存在をしっかりと主張していた。

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