第8話 「これでわかった?」——「バカ。」

俺は呆然と立ち尽くしていた。


唇に残る、かすかな温もり。


華乃の顔はすぐ目の前にあって、夜風に揺れる髪の隙間から、俺をじっと見つめている。


「……これで、わかった?」


彼女の声は震えていたけれど、その目は俺から逃げなかった。


俺は唇を噛んだ。胸が締めつけられる。


ずっと好きだった。


言えなかった想い。言わなかった気持ち。


「……俺も、好きだったよ。」


気づけば、そう口にしていた。


「ずっと前から。でも……俺なんかが、華乃の隣にいていいのか、わからなかった。」


俺の言葉に、華乃は驚いたように目を見開いた。でも次の瞬間、ふっと力が抜けたみたいに、俺の胸に顔をうずめる。


「……バカ。」


小さくそう呟いて、俺のシャツをぎゅっと握る。


「そんなの、ずっと一緒にいればよかったじゃん……。」


俺も、もう迷わなかった。


そっと、華乃の背中に腕を回した。


彼女の体温が、こんなにも近い。


「……これからは?」


俺がそう聞くと、華乃はゆっくり顔を上げた。


そして、少しだけ笑って、俺の手をもう一度強く握る。


「もう、離さないよ。」


夜の街の喧騒の中で、俺たちは静かに手を繋ぎ直した。

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