最弱ステータスからのガチャ無双~引き当てたレアスキルで英雄に!
のいのい
1章:勇者と魔王
第1話:ブラック企業からの逃避行
「――あれ、また終電逃したか?」
疲れた頭でそんなことを考えた瞬間、オフィスの時計は深夜を優にまわっていた。
俺の名前は真壁タケル。
三十二歳のサラリーマンだ。
いや、もしかすると“元”サラリーマンになるかもしれない。
「タケル、明日の資料はもう作った?」 隣のデスクに座る先輩が、血走った目でこちらを見てくる。
どうやら彼も限界ギリギリらしい。
「すみません、あと少しで終わります……」 必死にキーボードを叩きながら返事をするものの、正直、集中力はとっくに切れている。
ブラック企業とは聞いていたけど、まさかこんな生活になるとはなあ。
思えば俺は、大学卒業後にここへ入社してから、まともな休みをほとんど取れた試しがない。
最初は“頑張れば認められる”と信じていた。
だけどいつの間にか、頑張る理由すら見失いかけている。
いつか結婚したり趣味を楽しんだり――そんな夢ももう他人事だ。
やっとのことで上司に提出する資料を仕上げたころ、時刻は夜中の三時。
ふらふらの足取りで執務室を出る。
階段を下りるつもりが、足がもつれて思いきり転んだ。
「うわっ……」 思わず目をつぶる。
衝撃が来るはずのコンクリートが、なぜかふわりと俺の身体を包み込んだ。
――次に目を開けたとき、そこは見覚えのない広い石造りの部屋だった。
「え、なにここ……」 まるでヨーロッパの古城か神殿みたいな雰囲気。
色とりどりのステンドグラスから、月明かりとは違う奇妙な光が差し込んでいる。
幻覚か? 夢か? いや、どっちにしても会社じゃないなら大歓迎だ。
そんな自虐的な思考をしていると、奥から数人のローブを纏った男たちがやってきた。
「やはり……来られましたな」
「教書に記された運命の日が、今日だったというわけか」
訳のわからないことを言っているが、どうやら歓迎ムード……なのか?
何度も頭を振っても、ここはオフィスでも家でもない。
明らかに現実離れした場所だ。
「お疲れではありませんか? こちらへ」 突然声をかけられ、思わず後ずさる。
年配の神官風の男が、俺を優しく手招きした。
「ど、どこなんですか、ここ……?」
震える声で聞いてみると、神官は穏やかに微笑む。
そして信じられない答えを返してきた。
「ここはアルセルディア王国の大聖堂。あなたは選ばれたのです。
――この世界を救う英雄として」
――は? 俺が英雄?
せっかく会社から解放されたと思ったら、また“働け”とか言われるのかよ。
しかも今度は世界を救うなんてスケールが大きすぎる。
フロアの中心に飾られた巨大な紋章が怪しく光っている。
どうやらこの紋章が異世界へ人を呼び込む“召喚装置”らしい。
神官たちが一斉にひざまずき、畏まった様子で俺を仰ぎ見る。
「俺……どうなっちゃうんだ……」
このままよくわからない冒険やら戦争やらに巻き込まれるのは御免だが、意識を失う前の自分の境遇を思い出すと、どちらがマシなのかも判断できない。
だけど、ここで下手に逆らってもどうにもならない気がした。
そう――仕事がデスマーチ状態だった頃に比べれば、マシかもしれない。
いや、そもそも比較対象がおかしいけど。
「さあ、王都へ参りましょう。すべてはそこから始まります」
神官に促されるまま歩き出す。
異世界とやらに放り込まれた俺の、新たな人生が始まるらしい。
いやいや、ちょっと休憩くらいさせてくれよ……。
そんな苦笑混じりの呟きとは裏腹に、心臓は期待と不安で妙に高鳴っていた。
――この世界に来て数分で、俺は嫌な予感とほんの少しの希望を同時に抱くことになった。
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