第10話 死神の傭兵

 ノアたちがヴァイスに誘われた次の日、ガルダの戦火が収まり、朝の光が荒れ果てた街を照らしていた。激しい戦いが嘘のように、静寂が辺りを包み込んでいる。


 そんな中、グリムハウンズのヴァイスは、ノアたちをじっと見つめた後、口を開いた。


「さて、お前ら、どうする?」


 その問いに、ライラが真っ先に答えた。


「悪いが、俺はパスだね。傭兵稼業は趣味じゃない」


 彼は腕を組み、ヴァイスを真っ直ぐ見返す。


「俺は影流しの空船に戻るよ。あそこには、俺を待ってる奴らがいるんでな」


「へえ、律儀なこった」


 ヴァイスは肩をすくめたが、ライラが迷いなく答えたことには興味を示したようだった。


 次に、レイヴがため息をつきながら言った。


「俺も遠慮しておくよ。戦場はもう十分に見た」


 彼は剣を腰に戻し、ノアの方を見た。


「ノア、お前はどうする?」


 ノアは、ヴァイスの鋭い視線を受けながら考えていた。


(俺は、どうしたいんだ……)


 戦いを終えた今、自分が何を求めているのかをはっきりさせる必要があった。


 エルバを襲った者たちへの復讐か。

 自分が生きるための力か。

 それとも——


「俺は……」


 ノアは拳を握りしめ、ヴァイスの目を真っ直ぐ見た。


「俺は、戦えるようになりたい」


 その言葉に、ヴァイスがニヤリと笑った。


「なら、決まりだな」


「だが、タダで仲間にするわけじゃねえ」


 ヴァイスは腰の剣を抜き、鋭い音を立てながらそれを持ち上げた。


「俺に一撃でも入れられたら、入団を認めてやる」


 その言葉に、グリムハウンズの団員たちが軽く笑った。どうやら、この試験はよくあるものらしい。


「ヴァイスに勝てる奴なんて、そうそういねえよ」


「試験っていうより、どれだけ耐えられるかって話だな」


 そんな囁きが聞こえたが、ノアは気にしなかった。


「……わかった」


 ノアは剣を構えた。


 次の瞬間、ヴァイスが動いた。


「——!」


 ノアは背後から迫る気配を感じ、瞬時に反応して振り向く。だが、すでに遅かった。


「がっ——!」


 脇腹に強烈な蹴りが突き刺さり、ノアの身体は宙を舞った。地面に叩きつけられ、砂埃が舞い上がる。


「速い……!」


 立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。だが、それでも——


「……まだ終わっちゃいない」


 ノアは立ち上がり、再び剣を構えた。


「ほう、根性はあるな」


 ヴァイスは軽く剣を回し、挑発するような目つきをする。


「なら、もう少し試してやる」


 次の瞬間、ヴァイスは再び姿を消した。


 ノアは剣を振るう。だが、空を切るだけ。


(考えるな、感じろ!)


 本能のままに動く。


 直後——


 ヴァイスの刃が目の前に迫る。


(やば——)


 鋭い衝撃が身体を打ち抜き、ノアは再び地面に倒れ込んだ。


 息が苦しく、視界が揺れる。


 ヴァイスは剣を収め、ため息をついた。


「ま、こんなもんか」


 冷たい視線でノアを見下ろす。


「だが……悪くはない」


「……?」


「お前、まだ鍛えれば化けるぞ」


 ヴァイスはそう言いながら、ノアに手を差し出した。


「入団試験合格だ。明日から地獄を見てもらうぜ」


 ノアは朦朧としながら、その手を掴んだ。


「本当に、それでいいんだね?」


 その時、ライラの声が響いた。


 ノアが顔を上げると、ライラが腕を組み、険しい表情でこちらを見つめていた。


「お前は、戦う覚悟があるのか? それとも流されてるだけじゃないの?」


「……」


「グリムハウンズに入るってことは、もう後戻りはできないよ」


 ライラの言葉は重かった。しかし、ノアの決意は揺るがなかった。


「俺は……強くなりたい」


 静かに、しかしはっきりとした声でノアは答えた。


 ライラはしばらくノアの目を見つめ、やがて小さく息を吐く。


「……なら、せいぜい生き延びろよ」


 そう言ってライラは踵を返し、どこかへ歩いていった。


 こうして、ノアは正式にグリムハウンズの一員となった。


 だが、これが新たな地獄の始まりだということを、この時のノアはまだ知らなかった——。

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