その21:鴉羽様の夜

新橋と東雲が「眠い」と部屋に帰ってからしばらく。


「金糸雀、浅葱」

「鴉羽」

「鴉羽様だ。保護者は?」

「撫子なら、部屋で待期させている。流石にこの場へ連れてくるわけにも行かない、から…。隣、失礼しても?」

「勿論」


鴉羽は先程まで鳩羽が座っていた席に腰掛け、オレンジジュースを注文する。

お酒を飲みに来たわけではないらしい。


「残念ながら私は、お酒を飲めるわけではない。だから、酒の席ではあるが、これで失礼するよ」

「構わないわ。それで、どうして貴方はここに?」

「君の、成人祝いだと聞いてきた。せっかくだから、顔を出したというわけだ」

「私の為に来てくれたの?」

「まあ、色々…撫子と共に、世話になっているからな。礼儀は、欠かしたくはない」


たどたどしい口調で語られる心に、琥珀も笑みを浮かべる。

彼女の言葉が拙い理由は知っている。


そんな鴉羽には、苦手なことが非常に多い。

それは今、撫子と共に改善へ向けて頑張っている途中だ。

その進歩を見る貴重な機会。

かつて、会話すらままならなかった鴉羽を知っている琥珀からしたら、対話が出来ていることがとても微笑ましく感じるのだ。


「ありがとう、鴉羽」

「構わない。私が、したくて、するべきだと考えてやったことだ」

「それでも。以前の貴方なら不必要と切り捨てていただろうから」

「確かにな。お恥ずかしい、話になるんだろうけど…」


「あの毒親教育の渦中にいたなら仕方ないと思うわ…。撫子以外に歩み寄る人間もいなかったんでしょう?」

「まあ…。私の性格が他人との関係を切り捨てていたこともあるが、当時は姉様に対する執着も凄まじかったから…朱鷺や花鶏ほどではないが、入れ替わりは激しかった」

「会話をしない分、精神的に不安に陥らせることは多いものね…私も同じだから、わかる」


「こは、金糸雀もそうだったのか…」

「うん」

「お互い、今の籠守は手放さないように頑張ろう」

「そうね。と、いうか…貴方、撫子のこと気に入っているのね」

「まあ、放っておけない感じはする」

「その気持ち、大事にしてやってください。撫子は甘やかされる経験が少ないので、思いっきり甘やかすといいですよ。相棒からの助言です」


カルペスをちゅーちゅー吸う浅葱の助言。


「いい助言ね、浅葱」「これは素直に受け取って貰えるでしょう」と、どこから目線で、近くにいた月白は考えた。

しかし、それを聞いていたのは鴉羽と金糸雀である。

二人がまともな精神で、助言を受け取るわけがない。

金糸雀は浅葱の唯一を主張するために、鴉羽は撫子の唯一を主張するために。

———浅葱の肩を掴むのだ。


「ねえ、あーちゃん。相棒ってどういうこと?私が相棒、人生の相棒って言っていたのは何?相棒って大量に生えるものなの?ねえ?」

「うぷっ?」

「言われなくても私は甘やかしている。まさかお前、私の許可なく撫子を甘やかしているのか。撫子を甘やかしていいのは私だけだぞ…?」

「な、なんで私つめられて…」

「あーちゃん、ちょっとこっち」

「話がある」

「…ぜったいよくないやつじゃん」


琥珀と鴉羽に両腕を掴まれ、どこかに連れて行かれる浅葱。

それを見守っていた月白は…部屋の電気を消して自室に戻る。

「何が地雷になるかわからないわね」…と、ぼんやり呟きながら。

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