間話 フロントライン異状なし
_____轟音
_____悲鳴
___怒号
今日も様々な不協和音が飛び交う
火炎魔石を使用した後に残る硝煙にドス黒い血の跡。
大穴が空いてしまい生きているのか死んでいるのか生死の狭間にある騎士や兵。
おそらく救援は間に合わない。
漂う鉄の腐臭が入り混じり凄惨であり荒涼たるこの前線。
____フロントラインに異状なし。
激動の最中、辺境伯のダリウス・フォン・ヴァンガルドは、砦奥にある執務室で数週間ぶりにわずかな休息を取っていた。
ダリウスは魔力結晶を左手に取り。
心臓付近にある
これは
実は一点、問題がある。
しかし、外部から魔力を受け取る機能のような都合がいい能力を有していない。
よって、これは無理矢理魔力を回復させる行為となるので、身体には
それなりの痛みが生じる。
無理やり魔力を捩じ込むのだから当然と言えば当然ではあるが。
ヴァンガルドは良くも悪くも痛みに慣れているので特に気にしないが
他の領ではかなり嫌われている最後の魔力回復手段である。
本来の使用用途は魔力結晶を手にとって身体に走る
この緩やかな循環によって魔力結晶から出る無色の魔力を自分の色に
ただ、痛みに慣れているヴァンガルドとは言っても。
ダリウスはここ一年以上に渡って、常人なら一瞬で干涸びるであろう規模の魔法を1人放ち続けているのだ。その為、ダリウスの
そのような状況で魔力結晶をこの様に使った場合。本来であれば穴という穴から謎の液を撒き散らし大の大人が白目になって気絶するレベルの激痛を生じる目に会う。
しかし、ダリウスはそんな状況下にあるに関わらず全力で耐えていた。
なぜなら
彼の右手には一通の手紙。
――妻エリシアからの手紙が握られているからだ。
額に汗をかきながら手紙を開く。
そこには毅然とした筆致でこう書かれていた。
__________
ダリウス様へ
私はもともとアクアルーメンの娘として育ちました。
ですが、今の私は
エリシア・フォン・ヴァンガルド
あなたの手で、この身も心もヴァンガルドに染められた女です。
だから、その責任を一生取ってもらわないと困りますわ。
それに、私はもう“この地”をわたしの居場所と決めております。
ヴァンガルドの為に戦って来た領民の為にも。貴方の為にも。
貴族であるのならばその責任を真っ当しなくてはなりません。
アクアルーメンへ帰るという選択肢は、私にはもう存在しないのです。
もし、次に帰るときが来るのだとしたら。それはあなたと息子たち……
私の家族みんなと共に。
私の愛する、美しく穏やかなアクアルーメンの湖や緑を、いつかあなたにも見せたい。
二人だけで行くのではなく、家族みんなで分かち合いたい。
だから――
___どうか
_____どうか生きて。
私のもとに帰ってきてください。
どれだけ時が流れても
私はこのヴァンガルドの地であなたを待ち続けます。
ずっとあなたを待っています。
どんな夜が来ようと、何度朝を迎えようと、あなたが帰るその日まで……。
愛しております。
必ず、生きて戻ってきてください。
______エリシアより
_______
「……ふ、はははっ……」
ダリウスは苦笑しながらも
目頭を軽く押さえる。
妻の強さを再認識する瞬間だった。
身を蝕む痛みも今はどこにも感じない。
俺としたことが....
弱気が過ぎたか。
もっと気張らなくてはな....
ダリウスは心の中で呟き
手紙をそっと懐に仕舞い込む。
そこへ一人の騎士が息を切らしながら入室してくる。
「ダリウス閣下!!第三部隊が大型エクリプスの集団を捕捉、既にレイヴァン様が出撃中との報告が入りましたが、後続がさらに来ている模様で……!」
「あぁわかった。すぐに出る」
一気に表情を引き締め、外套を翻して外へ出る。
そこには広大な荒地が広がり、戦火の煙が渦を巻く。
遠方を見ると、レイヴァンと第三部隊が、オーガとアンフィスバエナを掛け合わせたような
厄介な事に一体あたり約5mほどか。とにかくデカい。
それにも関わらず個体数は500に達しているらしい。
こいつ等はデカいのに群れで行動するようだ。
わかりやすい化け物具合に溜め息を吐いた。
______
レイヴァンは風を纏った大剣を振り下ろし、エクリプス特有の醜悪な巨大な肉塊を一刀両断にする。
ただ、その巨体が故。
倒れるだけでも周囲を巻き込み土埃や黒い血やらで視界が悪くなる弊害を持つ。
ただでさえデカくて気持ちが悪いのに害しか及ぼさない糞袋だ。
レイヴァンも次々に倒してはいるものの、顔色などから疲労が滲んでいるのが見て取れる。
彼もここ数週間以上まともな休息なく事戦場に立っている。
若いから大丈夫だとかそう言う次元にもはや居ない。
レイヴァンは大剣を地面に突き刺し肩で息をする。
この姿を見た第三部隊隊長ヴィルヘルムは、苦笑を浮かべる。
「レイヴァン様……あまり無茶をなさらずに。いくらなんでも動きすぎです、我々に任せて少し休んでください」
レイヴァンは深く息をつき、大剣を地面から持ち上げた。
「はぁ……わかってる。ほぼ休みなしで戦い続けてるからな……。
だが、それは皆同じだから。
僕が最初に根を上げるわけにはいかないかな。」
そう言いつつも、彼の瞳には闘志が灯っていた。もしこの地点を崩されれば、砦そのものが危険に晒される。
――それを防ぐために、レイヴァンは常に最前線で刃を振るい続ける
使命を負っているのだ。
その時、さらに大きな地響きと共に、枯れ果てた大深林の奥から黒い塊が姿を現す。
数百メートル先で2000体を超えるエクリプスの大群が、土煙を巻き上げて一斉に突撃してきたのだ。
「……まだ休めそうじゃないな。
笑うしかない」
レイヴァンは思わず笑ってしまった
第三部隊隊長のヴィルヘルムがこれには一瞬絶句しつつ、声を上げかけたその瞬間、遠くから“ダリウスの声”が轟いた。
「レイヴァン!ヴィルヘルム!!
そこを離れろ――ッ!!」
レイヴァン、ヴィルヘルムは咄嗟に合図を出し、統制された素早い動きで部隊ごと後退に移る。
直後、ダリウスが放った巨大な魔法が眼前数500メートル先で大爆発を引き起こし、爆風とエクリプスの残骸が此方に吹き飛んできた。
――インフェルノ・イグナイト
1km離れた先でも見えるレベルの巨大な火球が炸裂し、凄まじい熱風と閃光を伴ってエクリプスの大群を一挙に焼き尽くした。
轟音が大地を揺るがし、熱気が戦場を焼き上げる。
流石にレイヴァンもその光景を目の当たりにし、少し息を呑む。
「……父様、またこの様な無茶を....
燃え盛る炎の渦が収まりきらないうちに、ダリウスはレイヴァンがいる最前線に到着。
そして、兵士たちに向けて雄々しい声を轟かせる。
「ゆけ、ヴァンガルドの騎士ども! 汚物どもを一匹残らず焼き殺せッ!!」
声に呼応して、兵士たちが一気に前進し、残党を潰しにかかる。
レイヴァンも再度大剣を握り、血に濡れたその刀身を一振りして父の隣へ並ぶ。
「父様!!!!!!!
全然休んでないじゃないですか!!!!父様のような固定砲台が前に出てきてどうするのいうのですか!!!!」
言葉とは裏腹に、レイヴァンの顔には笑みが浮かんでいる。
ダリウスが手元の手紙を思い返すかのように、わずかに微笑んだ。
「レイヴァン!
お前は一体何をみてきたのだ!
そんなもの決まっている!!
より前に出て打ち滅ぼせばいのだ!!!!!!!」
「結局、何も考えてないじゃないですか!!!」
久々の親子の語らいがこれである。ヴァンガルド家はこれで良い
「エリシア……必ず生きて戻る。
ヴィクターも....あの子はあの子で成長しているだろう。
だから俺も簡単には死なん。
行くぞ、レイヴァン!」
「父様!!顔が青いです!!
魔力がほぼ尽きているでしょう!!前に出過ぎなんですよ!!冷静になってください!!!!!!!」
そういってレイヴァンはダリウスの正面に出てくるエクリプスを切り捨て、更に風を纏った大剣で周囲一体に斬撃を叩き込む。
二人の声が溶け合った瞬間
再び爆音が轟き、戦場の光景が赤黒い炎と斬撃の嵐で満ちていく。
ヴァンガルドを背負う父と息子の姿は、荒れ果てた大地の中で、ひときわ鮮烈な存在感を放っていたが
やがてロイズ騎士団長とライネル副騎士団長の手により、無理やりフロントライン砦の執務室にて休息を取らされるのであった。
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