第28話

 先輩と予定を取り付けた後夜さんたちを待つこと数分、二人が保健室に戻ってきた。なぜか里瓜さとか先生が脇腹を抑えていたり夜さんが鬼から人の姿に戻ってたりしていたが気にしないことにした。


「夕ちゃん早速だけどその先輩って人に会えないかな?」

「会えるっていうか今から会うつもりだけど。里瓜先生がやらかしたことについても謝んないとだし」

「じゃあ私も行っていいかな?」

「もちろん大丈夫だよ!」


 正直あやかし関連の役所手続きといったことは正直よくわからないし夜さんがどの程度そういったことに詳しいかはわからない。けど私のそういったサポートは一任されてるくらいだからいてくれたらありがたい。正直里瓜先生に任せたくない気持ちの方が強いからなのだが。

 そうして先輩に夜さんが追加で来ることを連絡すると無事了承をもらえた。


「じゃあ集合場所どこにするべきか……」

「あ、そっかここだと先輩来れませんもんね」

「いけるとは思うぞ?うちの高校の制服は変わらんし。あ、そういえば知ってるか?うちの高校の制服のデザインを変えるって話が教師の間で出ててな」

「知りませんし脱線させないでください。というかまず一旦情報共有をしましょう。さっき里瓜先生から吐かせましたけどこの人の話なんて4割ちゃんとしてれば万々歳なので」


 夜さんがそういって手のひらをパンと音を立てて合わせる。


「はい。とりあえず私が質問しますから夕ちゃんと里瓜先生はなるべく不足がないように話してください」

「こうしてみると夜さんって里瓜先生より先生っぽいよね」


 恋人としての贔屓目線ではなくても私の彼女の顔はとても美人だと思う。「美人女教師夜野雲母」字面が最高すぎないか?なんか強そう。


「夕ちゃん真面目に話聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」

「そっか。じゃあさっきの一言で傷ついたっぽい里瓜先生のフォローよろしく」

「へ?」


 夜さんが指さされた方を見ると里瓜先生が何やら頭を抱えてうずくまってる。なんというか……とんでもなく情けない。


「里瓜先生ーどうしたの?」

「生徒にすら先生感で負ける教師ってなんなんだろうなって思ってちょっと考えてた」

「多分そんな風に情けない姿さらしてるからだと思う。もっとクールにポーカーフェイスを貫いた方がいいんじゃないの?知らないけど」


 里瓜先生は保険の先生であって高校の教育免許持っているのかと聞きたくなるが多分持ってないだろうし、そう考えたら教師なのか?と疑問が出てくるがまためんどくさくなりそうだしツッコまないことにした。


「ポーカーフェイス……こんな感じか?」


 すっと表情を切り替えたことに一瞬恐怖を覚えたが、作られた表情は確かに憂いを帯びてミステリアスな雰囲気があった。

 ちょっと心臓がドキっとしてしまったがすぐ隣に夜さんがいるのを思い出し私は表情を表に出さないようにする。


「お、おおー!できてるできてる!シゴデキ女教師感が出てる!」

「そうか?よし、なら今度からこういった表情を心掛けるか」

「じゃあ里瓜先生が復帰したところでもう一回聞きますけどその先輩の名前と住んでるところ出会った経緯とか聞いてもいい?」


 そうして私が知っている限りのことを話した。先輩と出会った経緯からどうして連絡先を交換したのか。彼女が魔女に接触してあやかしになったこと。私が抱いた感想などは排除してなるべく客観的に物事を伝えた。そうしていると先輩との待ち合わせの時間がすぐだったので三人で移動する。待ち合わせ場所駅の花時計に先に来ていたのは先輩の方だった。


「あなたたち遅くない?普通集合10分前にはつくものだと思うのだけど」

「別に集合1分前につくのは普通の範疇では?」

「そうなの?なら悪かったわ」

「そうなんですよー。だからそうカリカリしないでください」

「カリカリなんかしてない。ただ……待ち合わせというものをあまりしてこなかったからドタキャンされたらどうしようって不安になってただけだから」


 別にそんなこと正直に言わなくてもいいのにと思うがあざといなこの先輩。私にSの素質なんてあるわけないのに少しイジりたくなってしまう。


「夕ちゃんからかってないでまずは挨拶の方が先でしょ。初めまして私は夜野雲母です。こっちは……ってもう三人は自己紹介くらいすませてますよね」

「いいえ、していないわ。雲母さんありがとう。私正直この二人が連れて来る人物だからあなたのことをすごい警戒してたんだけど、あなたがまともでとても助かるわ」

「あはは……。と、とりあえず立ち話というのもなんですしどこかでご飯を食べながら話しませんか?」


 時計を見ずともわかる。ムクドリがピヨピヨ鳴きながら空を覆いつくしているためもう夕飯時だ。先輩もそれに同意したため私たちは学生向けのお値段設定のファミレスに向かった。


「そういえば里瓜先生なんでうちの駅周辺ってこんなにムクドリ多いんですかね?」

「一応市だったか県だったかが対応してるらしいけど、それでも減少してる気がしないよな」

「里瓜先生も知ってると思いますけど私の家って駅から近いんですよね。だから深夜でも耳をすませば割と聞こえるんですよピヨピヨピヨって」

「怖~あいつらいつ寝てるんだよ」

「そのせいで私の中ではカラスが鳴ったら帰りましょうじゃなくてムクドリが鳴ったら帰りましょうになるんだよね。先輩はなんか地元トークみたいなのありますか?」

「え、私?急に話を振られても困るんだけど。ええっと……ラジウム卵って温泉卵と具体的にどう違うのかわからないとかかしら?」


 確かにスーパーでよく見かけるラジウム卵は飯坂温泉が発祥の地と聞くがぶっちゃけただの温泉卵との違いがよくわからない。ただのゆで卵ではないというのはなんとなくわかる。卵を割ったら白身は半熟ともいえない感じのドロっとした見た目になるのに黄身の方はしっかりと固まっていて……濃厚!って感じでおいしいのだ。

 そういった雑談でなんとなく場の空気を和ませてると無事サイ○○ヤについた。注文を済ませたところで自己紹介を始めた。


「じゃあまずは、私からさせてもらいますね。此夕しゆう彩夏あやかです数週間前にあやかしになりました」


 これでいいのだろうか?知り合いしかいないし先輩に名前さえ知ってもらえれば私としては十分だし。まこれでいっか。


「じゃあ次私か。狗掛山いぬかけさん里瓜さとかだよろしく。一応お前らの監督役になる人間だから覚えておいてもらえると嬉しい」

「監督?ってたまに思うくらい自由にさせてもらってもらってるからその実感ないけどね」

「なんなら私が里瓜先生の代わりに仕事をこなしてる時もあるので……」

「先生ならもうちょっとマトモに生きたらどうなの?」

「……ふ。じゃあ次はそっちのことを教えてもらおうか」


 里瓜先生はさっき練習してたポーカーフェイスを実行した。この人喋らなければ美人なのにな……。

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