第17話
昨日の天気予報通り今日は雨が降った。それはいいんだけど現在時刻午前7時高校生が休日に起きる時間としては相当早い。眠い、すっごい眠い。そんな中私は近くのコンビニで買ったお茶を飲みながら里瓜先生の車を待っている。いや、なんでこんな早朝なんだろう。
少し肌寒いなと思い始めたところに目の前に一台の車が止まった。どこにでもある普通乗用車だ。運転席からは里瓜先生が顔を出した。
「雨降ってるし、寒かっただろう。さっさと乗りなさい」
「そうですよ。寒かったんですからね!あ、それとコンビニで買ったおにぎり車内で食べていいですか?」
「いいけど汚すなよ?」
「わかってますってー」
おにぎりの袋に書かれた手順通りに開封する。しかし商品を作った会社の企業努力とは裏腹におにぎりの海苔は破れて、それに付着していた塩がシートにこぼれる。……見えないだろうし、まあいっか。
今日の朝食は鮭のおにぎりといくら醤油のおにぎりだ。いくらの方はおにぎりにしてはちょっとお高いが美味しいし、景気づけにいいだろう。
「次はどこに向かうんです?」
「キララの家だ」
「里瓜先生。私今、夜さんと気まずい状態なの知ってます?」
「……知らないな」
「なら説明しますね」
「いや、いい知ってる。嘘をついたすまん」
「なんでわざわざそんなことを?」
「学生の青春に大人が首を突っ込むほど野暮なことはできないだろう?」
「野暮ですか」
「野暮だろ。今回の場合は結果がわかりきってるんだから」
確かに私は自分なりの答えを出した。だから彼女の言葉は的を得ているのだが。一つ気になったことがあった。
「里瓜先生もそういうんですね」
「もって誰が言ったんだ?」
「瞳にも相談したんですよ。そしたら私にはもう介入することが出来ないって」
「占部の妹もそんなこと言ってたのか」
瞳ことを思い出したのか彼女は少し声に嫌悪感をにじませる。
「これ聞いてもいいのかわからないんですけど、里瓜先生はなんでそんなに占部の人間という枠組みで瞳を嫌ってるんですか?彼女のこと何も知らないのに」
「あいつが占部であるということとうちの高校の生徒だということは知ってる」
「それだと何にも知らないも同義じゃないですか」
「私にとってはそれだけで嫌う理由にも好く理由にもなるんだよ」
「前も言ってましたっけ。大好きな生徒が大嫌いな名前を名乗るから困ってるって」
「彩夏は記憶力いいな。テストでいい点でも取れるんじゃないか?」
「茶化さないでください。先生が瞳を嫌う理由は占部っていう名前だけなんですよね?それって先生にとってどんな意味なんですか?」
里瓜先生は何かを考えるように無言になったが赤信号になり車が停止するとまた口を開いた。
「……私の初めての人との繋がり」
「じゃあなんで名前を聞くだけで嫌がったりなんかしてるんですか?」
「占部の人間に
「散々な評価ですね……」
「その中でも占部の人間は毎回毎回律儀に占部の一門の
なるほど。とりあえず話の4割くらいしか理解できなかった。調伏という単語をしらべてみると悪霊、妖魔を討伐すること……あれ?里瓜先生さも自分は被害者みたいに話してたけどもしかして加害者の側だったのでは?まあそれは一旦頭の隅に置いておこう。
「でもそれだって瞳のご先祖様の話なんですよね?何年前のことかは知りませんけど水に流したって……」
「いや今でも全然関わりあるぞ。お盆と正月には占部の本家に強制的に呼ばれて祭事に巻き込まれたりする。当時の私をどう討伐したかを祭の演目にされてその後はそれに感化された占部の子供たちにヒーローごっこみたいな感じで尻尾の毛を何本かむしりとられるんだよ……」
あ、恨みが晴れることはなさそう。ごめん瞳それはどうにもフォローできそうにない……
「あれ?それだとなんで瞳は里瓜先生のことを知らなかったんですか?」
「おそらく才能がなかったから本家に呼ばれなかったんだろうな」
「才能ですか?」
「そ、妖怪を見る才能か妖怪にならない才能のどっちか……いやあの感じからして両方なかったんだろうな……っとキララの家についたぞ」
気になるところで車が止まった。
「おはよう夕ちゃん、先生もおはようございます」
「おはよ夜さん」
夜さんは自然な流れで助手席ではなく後部座席である私の隣に座る。いや、うん、いいんだけどさ、親友だしね?でも今私たちの関係って宙ぶらりん気味だし……なんでこんなに言い訳してるんだろう。言い訳がましい自分が嫌になってくる。決着をつけるべきだ。
「……ねえ夜さん」
「な、何?夕ちゃん」
「この前ことなんだけどさ。ごめん……」
ああ!もう違う!口に出したいのはそんな言葉じゃないのに!
私の伝えたいことそれは別の言葉だ。
「ごめんって言われても私の気もちは変わらないよ?」
ああその言葉が聞けてよかった。ならば私は彼女によりそった答えをあげられる。ズルいな私は。確信をもったあとに言うなんて。嬉しくて笑みがこぼれそうになるけど深呼吸をして。真剣な顔にする。
「夜さん……
言えた。言った。言ってしまった。
凄い速度で顔が熱くなり今にも顔から火が出そうだ。
「え、え?ええええええええ!?な、なんで!?夕ちゃん私のこと嫌いになったんじゃないの?!それで私と絶交を言い渡そうとしてたんじゃないの!?」
「これまでもこれからも夜さんのことはずっと好きだよ。嫌いになることなんて絶対ない。もちろん……れ、恋愛的意味で」
「そ、そうなんだ。え、あれ?夕ちゃんが私と付き合ってほしい?待って待って脳の処理が追い付かない」
夜さんがうつむいて数十秒硬直する。
「わたしは しょうきに もどった!つまり夕ちゃんは私のことが親友として好きってことで、絶交しないってこと。これからも私たちは友達ってことだよね」
あたふたしてる彼女はかわいらしい。でもそう受け取ってほしくはない。
今更ながら彼女がこれまでどんな気持ちで私の友達発言を聞き入れてきたのか理解できた。ああ、こんな気持ちだったんだね。モヤモヤして一線超えてしまいたくなる。
今の関係が壊れることを恐れて一歩踏み出せなかった過去の彼女と進展できると確認してから踏み出す今の私どっちが悪かと言われれば当然私だ。
軽いリップ音。
……これで伝わったかな?
「みゃ、みゃぁ……」
あ、猫さんになっちゃった。かわいいからもう一回しちゃおう。
馬乗りになりながらも私はもう一度……いや何度も行った。彼女の唇から頬、首筋から鎖骨まで。肌を露出している場所には存分にキスを落とした。
「ふう……」
達成感というか征服欲というが満たされる。夜さんはくたっと力が抜けたようになってしまった姿を見ると背中がクゾクとして変な快感を覚える。
「……満足したかお前ら」
バックミラー越しに里瓜先生と目が合う。あ、今までここが車内であることを完全に忘れてた。
「そろそろ目的地に着くからなちゃんとしとけよ。いや、その……絆創膏買うためにコンビニでも寄るか」
ご迷惑おかけしました。
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