第10話

 ドロドロの液状になったアイスを食べ終えてから今日の授業でどんなことがあったかの雑談をした後里瓜先生が置いていった葉っぱの話になった。


「そうだ。夜さんこの葉っぱって具体的にどう使うの?」


 手のひらぐらいの木箱から一枚取り出してみる。見た目に限って言えばザ・広葉樹の葉っぱという感想しか思いつかない。あとは光沢的に常緑樹のものではなさそうということぐらいだろう。


「えっとね。こう自分の頭の上に乗っけてなりたい姿を思い浮かべて……変化!」


 ボフンというという音と煙とともに目の前の夜さんは私の姿になった。


「どう?夕ちゃんになってみたんだけど似てる……かな?」


 毎朝鏡の前で見る姿と寸分たがわないよう見える。自分の顔なんてそんなまじまじと見るものではないため微妙に違うところもあるかもしれないが里瓜先生が前に夜さんに化けたときのような違和感は感じない。


「うん、そっくりすぎてびっくりした。でも自分の顔をずっと見続けるのはゲシュタルト崩壊しそうになるね」

「あはは……それもそうだね。解。まあこんな感じなんだけど早速やってみよっか」

「質問だけどそれってなんにでも化けられるの?」

「先生曰く人間以外に化けるのは例えできたとしてもやるなとは言われてるね」

「その心は?」

「口がないと解除できないからだよ。夕ちゃんだって子狼の姿になったとき話せなかったでしょ。言霊って知ってる?術を使うときは言葉も大事らしいから唱えられないとまず失敗するらしいよ」

「中二病的意味でやるものではなかったんだね……」

「そーだよ。じゃあ早速やってみようか」


 木箱から葉っぱを一枚取り出して頭に乗っける。何をイメージすべきであろうか?人であればだれでもよさそうだがどうせなら夜さんを驚かせてみたい。夜さんに化けるのは直前に彼女がやっている、ネタ被りは嫌だ。

 夜さんのお母さんとか?一応何度か面識はあるけどうろ覚えだ。担任教師は……男の人だしなんか失敗しそう。というか名前なんだっけ?顔も思い出せない。

 先生……あっ。驚かせそうで顔もほぼ完ぺきに顔を思い出せる人を思い出した。


「じゃあやってみるね……変化!」


 直後頭に乗っけた葉っぱに何かが吸い取られるような感覚がやってくる。え、夜さんたちこんな感覚を味わいながらあんなポンポン化けてるの!?

 ボフンという音と煙が私の周囲に発生し思わず目を閉じてしまう。

 目を開くと普段より高い視点であることがわかりとりあえず成功したと考えていいだろう。あとは彼女に完成度を聞くべきだ。


「おお!できたよ!夜さん」

「すごいね夕ちゃん完璧と言っても過言じゃないよ……でも何で里瓜先生に?」

「夜さんを驚かせたくてビックリした?」

「したけどね、目の前に私がいたんだし私でよかったんじゃ?」

「直前に夜さんが私になってたしネタ被りは避けようと思って」

「そうなんだ。じゃあ今度練習するときは私になってほしいな。先生の姿のまま夕ちゃんの言動をされると心臓が持たないから……」

「うーんそこまで言うならわかった。これで解っていえばいいんだよね」


 口に出した瞬間にいつもの音と煙とともにもとの姿に戻ってしまった。


「あれもとに戻っちゃった」

「あ、うん。葉っぱを使った変化は解って口にしちゃうと戻っちゃうから気をつけてって言うの忘れてた。ごめんね……」


 一拍おいてから彼女がハッとしたような顔つきになる。するとどんどん顔色が悪くなっていった。


「昨日はごめんね」

「えっと……どれのこと?」


 昨日一日なんか色々ありすぎた。謝られても何に謝られてるのかわからないしそもそも私は彼女に怒りを覚えることはない。


「私が夕ちゃんの左手の薬指に傷を残しちゃったこと」

「……ああ!それか」

「忘れてたの!?」

「そういえばあったなーって、痛みもないし包帯も見えないしで完全に忘れてた」


 昨日家に帰ってわかったことだが変化しているときは私の体は健康な時の状態のものを反映していて私の包帯は反映されていなかった。両親から何かしらお小言をもらうと思ってたけど何の反応もされなかったから気づけた。


「里瓜先生によるとキレイに治るみたいだから気にしないでいいよ」

「でも!だからって私のしたことは変わらないよね」

「じゃあもしも傷跡が残ったら責任とってもらおうかな」


 正直キレイに治らなくてもちゃんとくっついてるしどうでもいいのだが、夜さんがしょんぼりしているのは見過ごせない。

 なら私が一肌脱いで小粋なジョークで笑わすべきだろう。そんな気持ちで笑顔で言ってみたが夜さんはより真剣な表情になってしまった。


「責任……そうだね。そうだよね。夕ちゃん巻き尺どこにあるかわかる?」

「え?お父さんの部屋にあるけど。引き出しの二段目だったかな?」

「わかったちょっと借りるね」

「待って話が飛躍した気がする。一旦整理しよ?」


 落ち着いて話しあった結果……

 Q.なんで巻き尺が必要なの?A.夕ちゃんの指のサイズを計るためだね。

 Q.計って何するつもりなの?A.責任取らなきゃだもんね。

 Q.抽象的にしないで言うと?A.結婚しよっか。

 Q.夕ちゃんお顔真っ赤だね?A.……。

 うん、とりあえずベッドから出て逃げよう。そう思って足をベッドから出す。その動作を見た彼女は「解」と言って鬼の姿になって私をベッドに押し倒す。

 身体能力の差だろう昨日同様振りほどけない。


「逃げちゃだめだよ。夕ちゃんはこの手の話題を振ってくるくせに自分のことは全然話そうとしないよね。今日は絶対に逃がさない」

「ねえ夜さん。一応聞くんだけど正気なんだよね?」


 昨日私を襲ってきたときは紫色のオーラというかモヤみたいなのがまとわりついていた。だが今の彼女にはそれらしきものはない。いたって普通なのだ。


「正気だよ?いや夕ちゃんへの愛に狂ってるから正気ではないか」

「すっごい冷静に自己分析できてるなら狂ってないんじゃ……」

「狂ってるよ。今日だって朝から夕ちゃんに会えないから私のメンタルはガタガタ過ぎて授業内容全然入ってこなかったし。お見舞いOKの返信もらった時はスキップしそうになるくらいにはうれしかった。今日一日冷静でいられた時なんて夕ちゃんに会えてからぐらいなものだよ。それだって夕ちゃんが心配だから何をすべきなのかを考えるために冷静になってるだけだし」

「まあ私の指がキレイに治らなかったらっていう前提だしこの話は終わりにしよ?」

「そうなんだけど……じゃあこれだけは答えて。夕ちゃんは私のことが好きなんだよね?私と将来を誓うパートナーになりたいと思ってくれてるんだよね?」

「それは……」


 どうなんだろう。私は彼女と何十年後も一緒にご飯を食べていると思うし遊んだりもしていると簡単に想像もできる。だけどだからって彼女と親友より進んだ関係なりたいのだろうか……

 一日中一緒にいても苦には感じないし楽しそうだなとすら思っているから同棲はできると思う。ならいいのか?


「一緒に住むとかなら」

「じゃあ夜は?私はパートナーとそういうこともしたいって思うし。夕ちゃんだってそういうことしたいって思ってくれてるよね?」


 一瞬考えるがすぐに結論が浮かぶ。


「無理だよそれは。だって私たち女同士なんだよ?」

「やっぱりそう答えるよね残念だな……なんてね。今までのは全部冗談だってば。先生が言ってたんでしょ?なら大丈夫だと思うよ。あ、今日用事あったの忘れてた。じゃあね夕ちゃんまた明日。お大事に」


 「変化」という声とともに夜さんは元の姿に戻ると私を解放するとそのまま帰り支度を始めてしまった。何か言うべきなのだろうとわかっているがどんなことを言えばいいのかわからない。そう考えてるうちに彼女は帰ってしまった。

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