第7話

顔すら覚えていないのに

名前なんて覚えているはずがない。




男の人は笑顔のまま私の髪に触れながら言った。





「苑だよ。…呼んでごらん」





優しい口調で、

でも確かに命令形で言われたその言葉に

震える声で呟く。





「えん、さん」


「違う。苑」





間髪入れずに言われて

咄嗟にその意味を理解した。




死の恐怖と直面している私は

彼の機嫌を損なうまいとすぐにそれを口にする。





「え、ん」


「いい子だね。

 あきらが呼んでいいのは

 俺の名前だけだよ?」





苑は相変わらず微笑をたたえたまま

私に強要した。



それに

何度もうなずいてその意思を伝える。

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