第7話 藤堂麻美
私の名前は
3-C組で学級委員長をしている。でももうそんな事はどうでもよくなってしまった。このクラスは異世界転移?してしまったのだ。
なぜか現地民と会話が通じるのと、現地の人々に保護されており、なんとか生活できているがそれも永遠ではない。近い未来、自活する事が求められるだろう。
でも私達はみんな中学三年生。多感な時期でもあり、そして体つきは段々と大人っぽくはなってきているが、精神的にはまだまだ未熟で子供だ。ホームシックなどで精神に失調をきたして、心が病みかかってしまっている生徒も少なくない。
ここまできたら学級委員長なんて関係ないと思うのだけど、大部分の生徒は私にクラスをまとめようとさせる。私だって頼れるなら誰かに頼りたいのに。
ちらっと部屋の端っこにいる男の子を見る。幼馴染の雄太だ。ゲームとアニメが好きで人付き合いが苦手で、話相手が全くいない訳ではないみたいなのだが、気付くとクラスで割といつも
そんな彼はここ異世界でもマイペースだ。焦ったり落ち着きがないクラスメイトが多い中で彼は変わっていない。それを見ると少しほっとするのは何でだろう。とはいえ彼が何かの役に立ってくれるわけではないのだけれど。
いや、ちょっとは役に立っているか。
彼のスキル…この異世界に飛ばされた時に全員が何かしらのスキルというものを得ている。何このゲームみたいな展開とも思ったが、基本的には役に立つのだから無いよりはマシかと思う事にした。
彼のスキルはガチャ。デイリーガチャというのを1日1回引けるらしい。ほとんどがハズレで、日本でコンビニとかで売っていた『カロリースティック』というのが手に入るらしい。こんなのとても日本の味とは言えないと思うのだけれど、こんなものでも一定の層には精神安定の一助になっているみたい。
一方で私のスキルは『指揮』。スキルまで私に学級委員長をさせようとしないで欲しいのだけれど。効果は自分をリーダーと認める人に対して、ちょっとだけ
ただ最もゲーム的な何かといえば、ここイタセン王国の王都の近くにダンジョンがある事でしょうね。そこでは魔物が出て、魔物を退治できれば換金できるアイテムが手に入る。もっと深くまで潜れば一獲千金の宝箱もあるかもしれないとの噂。男子生徒たちはゲーム感覚で好んでダンジョンに行ってるらしいわね。ここはゲームの世界じゃなくて現実の世界なのだけれどね。
事実、ダンジョンでは少なからず死者も出ているらしく、危険があるのでなるべく他の仕事を探してほしいのだけれど、現時点では他にお金が稼げる有力な手段があまりないから仕方ないのかもしれない。ダンジョンでもまだ大してお金は稼げないのだけれど、魔物を倒し続けるとゲームのように少しずつ強くなれるらしくて、保護期間が終わるまでにある程度強くなれれば、それで生活できるらしい。そして王国の騎士によると、なぜか現地民よりもスジがいいそうだ。思ったより早く稼げるようになるかもしれないとの事。
だから私も仕方なく何度かはダンジョンに行っているわ。
そんな日々を2~3週間程過ごした頃、クラス内では精神的な繋がりを求めるのかカップルがたくさん出来ていったわ。私も何人かに言い寄られたけど、下心見え見え過ぎてそんな気にはなれなかったわね。相手が相手だったから余計かもしれないけど。
そんな中、遂にあの幼馴染の雄太にも彼女が出来た。そうなのね。まぁ人の色恋に口を挟む気はないのだけれど、正直意外だったわ。田中さんの事が好きだったのかしら?田中さんは相田君といつもつるんでたような気がするのだけれど。それにしてもいつもマイペースだった雄太が、甲斐甲斐しく田中さんの機嫌をとっているのを見ると、少し心にくるものがあるわね。マイペースに見えていた雄太でさえ、平静ではいられなかったという事なのね。
はぁ。学級委員長は誰かカップル持ちでやってくれないかしら。
なんて思っていたら、数日後に大変な事が起きた。雄太が奈落の底に転落したというの。まさか!なんで?一緒に行っていた田中さんは何をしていたの!?
話を聞くとダンジョン内で田中さんが雄太に求められたからといって、それに応じていたところに急に魔物に襲われて、奈落という大穴に落ちていったというのだ。田中さんはその場から必死に逃げて、相田君とダンジョン内で鉢合って保護されて帰ってきたらしい。
「あいつも大人しそうな顔してダンジョン内でやろうとするなんて、人は見かけによらねえなぁ。」
「まったくだ、そんで穴に落ちちまうなんてダサ過ぎるけどな。」
と相田君とその仲間たちが笑いながら言っている。クラスメイトが死んだかもしれないとは思えない態度だ。
「やめて!クラスメイトがピンチなのよ?その言い方は何なのよ!」
と私が少し強めの口調で言うとピタリと止んだ。周りも確かにそうだという目で相田君たちを見る。すると相田君はふてぶてしい表情をしながらこう言った。
「クラスメイトのピンチ?違うね。あいつは死んだんだ。あの大穴に落ちて生きている訳が無いだろう。しかもあいつは自分の欲望でもう一人の女性を危機に陥れて、田中まで穴に落ちていたかもしれないんだ。自業自得だろう。」
そんなのうそだ。雄太にそんな甲斐性無い!それに…
「本当にそうかしら?
田中さん、雄太という彼氏がいる割には先程から相田君の腕に掴まっているわよね。もう穴に落ちてしまえば雄太は彼氏ではないの?それに彼氏が落ちたのにも関わらず、あまり悲しそうじゃないわね。どういう事なの?」
慌てて相田君から手を放す田中さん。相田君もちっと舌打ちする。
「もしかして…そういう事はないわよね?」
「何が言いたいんだ!?いかに学級委員長とはいえど、言っていい事と悪い事があるぞ?」
相田君は凄んでみせた。ちょっと怖いと思わないでもないけど、私も引けない。
「そういう事としか言ってないのだけれど、相田君は何を想像したのかしらね。」
相田君を見つめ返す。それにクラスメイトたちも相田君たちへの不信感の方が勝ったようで大勢が相田君の返答を待っている。不利を悟ったのか相田君たちは舌打ちをすると部屋を出ていった。
私は相田君が出ていった事にほっとした。
でも雄太は…。
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