第3話 孤立と恐怖
それからというもの、家の中は沈黙に包まれた。家族は夜の外出を完全に避け、窓のカーテンを閉め、灯りも最小限にして過ごしていた。父親はあの日以来ほとんど口を開かず、母親は無言のまま食事を用意するだけの日々が続く。
夜になると、海の闇がすべてを飲み込む。時折、水面がざわめき、不気味な波紋が広がる。音もなく、しかし確かに何かがそこにいる。
***
ある夜、主人公は部屋の隅でじっと息をひそめていた。手元には電池式のラジオがあり、微弱な電波を探してダイヤルを回す。
——ガサ……ガサ……ザー……
ノイズばかりで、まともな放送はほとんど入らない。かろうじて、ある局の音声が拾えた。
「……現在も行方不明者の捜索が続いていますが……政府の発表によると……未確認生物の存在が……」
その先の音声は乱れ、途切れ途切れにしか聞こえない。しかし、主人公は耳を凝らした。
「……『それ』は群れで行動する可能性がある……水中での動きは極めて速く……視覚よりも振動に反応している……」
——ザーッ……ガガ……プツン
唐突にラジオの音が消えた。電波が途絶えたのだ。
「……群れで行動する……?」
主人公は手のひらが汗ばむのを感じた。もし、あの巨大な蛇のような化け物が単独ではなく、複数存在するのだとしたら——。
そのとき、遠くで水が跳ねる音がした。
主人公は息を呑み、そっとカーテンの隙間から外を覗いた。
月明かりが薄く広がる水面に、黒い影が蠢いている。
「……っ!」
それはまるで、蛇が泳ぐような動きだった。長く、しなやかな体が水中を滑るように進む。だが、ただの蛇ではない。異様なまでに巨大だった。
影はゆっくりと家の近くを通り過ぎたかと思うと、水中へと消えていった。だが、それが去ったわけではないことは直感で分かった。
主人公はそっとカーテンを閉め、背後の壁に寄りかかるようにして座り込んだ。全身の力が抜け、心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。
***
翌朝、主人公は食糧の確認をした。
米や乾燥食品のストックはまだ多少あるが、このまま救助が来なければ、いつか尽きる。水は雨水を貯めているが、限界がある。
それに——この世界がどこまで沈んでいるのかも分からない。
携帯は圏外で、SNSも途絶えて久しい。電気はまだ通っているものの、いつ途絶えるかわからない。
救助は……来るのか?
それとも、もうこの世界は見放されたのか?
夜になると、再び水音が響いた。
そして、家の周囲の水面に、奇妙な波紋が広がり始めた——。
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