続々・天狗と少年の夏
hekisei
第1話 序章
あの山から帰還して数年が経った。
大学生になった陽太はバイトと講義をこなす日々。
アヤとは最初の頃こそ連絡を取っていたが、次第に疎遠になっていた。
原因は、陽太の態度だ。
陽太はアヤが山での記憶を失っていると分かっていても、つい
そんな陽太に対してアヤは違和感を覚え、距離を取るようになった。
一度、アヤにこう言われたことがある。
「ごめん……なんか、陽太と話してると、たまに違和感があるの」
「違和感?」
「まるで、私の知らないところで、すごく親しかったみたいな」
「すごく親しかったって……それは」
「ごめんなさい。私、そういうの苦手なの」
その一言が決定的だった。
陽太にも言いたい事があったが、うまく言葉が出てこない。
それ以来、二人の間には微妙な距離感が生まれたまま、時間だけが過ぎていった。
そんな日々。
町では不可解な現象が相次いでいた。
最初に話題になったのは「夜の公園で手足の長い人間が浮遊していた」 という目撃談。
複数の目撃者がSNSに投稿し「影の男」「重力を無視する人間」などと都市伝説化し始める。
ある者は「黒いスーツを着た男が地面に足をつかずに浮いていた」と証言し、また別の者は「不自然に長い手がこちらに伸びてきた」と恐怖を語った。
次に起こったのは「ビルの屋上にいたサラリーマンが突風に吹き飛ばされたにも関わらず無傷で着地した」 という事件。
目撃者によると、突風で屋上から落ちた人間は、普通なら即死する高さだった。
だが、なぜか風に包まれるように地面へと降り、そのまま無傷で立ち上がったという。
「奇跡の生還」と話題になるが、本人も何が起きたのかよくわからないとのこと。
極めつけは「町中を流れる川が突如として増水し濁流と化した」 事件。
普段は穏やかな川が、突然、滝のような勢いで流れ出して付近の道路に溢れ出し建物が浸水の被害を受けた。
不可解なことに、天気は晴れており、雨も降っていない。
住民の間では「川の主が怒った」などと噂されるが、誰も原因を特定できなかった。
陽太もこの異変を耳にする。
直接関わったわけではないが、ニュースやSNSで拡散される怪異を見て「これはただの偶然じゃない」 と直感していた。
かつての夏の山で天狗や結界のことを知ってしまった者として、無視できないものを感じる。
「もしかすると……また、天狗や山とかかわることになるのか?」
そう思うと、なぜか胸の奥がざわついた。
それはただの勘ではない。
彼の体はもう一度 「向こうの世界」 との繋がりを感じ始めていた。
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