第16話、コントロール

 

 ワイの哺乳瓶を壊したのは母上やった。

 いや、それよりも………

 母上が怒ってる。


「私は貴方達の教育を間違えました」

「た、達? 当主様。私、私もですか?」


 母上の言葉にアネウットが食いつく。


「ええ、アネウット。最近の貴方は、ある意味、馬鹿息子よりも………」


 母上の眼が輝やく。

 同時に母上の左手の紋章。

 プラチナム家の魔力紋章にも光が灯る。


 不味い!

 背筋が凍る。


 あ、あの光かた。

 あれは不味い。

 攻撃色や。


 肉食獣の目が輝いとる時は、危険な時や。

 気をつけな噛まれる。


「ヒイィ。逃げるでアネウット」

「え? え?」


 うろたえるアネウット。


「アレは母上電撃お仕置きの前兆や」

「いったい何ですか? その電撃お仕置きっていうのは?」


「泣くまで電魔法でビリビリする、お仕置きや」

「ソ、そんな」

 青ざめるアネウット。


「酷くなどありません! この世に馬鹿を馬鹿のまま、解き放ってしまうわけには、行きませんからね。しつけ、です」


「と、当主様。そのしつけが、若様の頭に悪影響をあたえてしまったのでは?」

「ふぁ?」


 え?

 アネウット今なんて言ったや?

 ワイ君の頭が、なんやて?


『ワイ君。また何か

 ディスられちゃいましたか?』


「ならば、貴方で試してみまょうか。アネウット!」

「えぇ〜」


「お仕置きの電撃で、貴方も馬鹿になったとしたら………あの子の馬鹿は私のせいです」

「えぇぇぇ〜」

「貴方に問題が無ければ、あの子の馬鹿は生まれつきです」


 アカン。

 母上が無茶苦茶言うとる。

 コレはアカンで〜!


「そ、そんな。あ、そうだ!」

「なんですか?」

「どっちにせよ、若様を産んで、この世に誕生させたのは当主様ゆえ。どちらに転んでも、当主様に責任があるのでは………」

「ふぁ???」


 なんの責任や?

 ワイ。

 アネウットに、またディスられた?


 なんか二人で盛り上がっとる所。

 悪いんやが申し訳ないんやが。

 2人の流れ弾で、ワイの心が折れそうや。


「………どうやら、本気でお仕置きが必要なようですね、アネウ〜ット」


 母上から魔力のオーラが立ち上る。

 どうやら本気になった様や。


「アネウット。火に油を注ぐのはアカンで。あぁ、なった母上は何を言っても無駄や」

「しかし」


「母上が『ギャオ』ったら。ワイ君等は、ただ奴隷のように耐えるしか無いんや」


「ギャオったらとはなんですか! ギャオったらとは!」

「ヒイィ。ごめんやで母上」

「………」


 ワイ君は誤ったが………

 母上の表情は変わらない。

 許してくれそうにない。


「ここから逃げますよ。若様」

「ファッ?」


「こんなのは間違ってます」

「ムダやアネウット。母上に狙われて逃げ切れた者はおらん」


「でも!」

「ワイ等はただ、動物病院に連れられたペットの様に、震えるしかないんや」


「若様………」

「ワイが死んだ魚のように、お仕置きを受け流しとる間に、アネウットは逃げてや」


 アネウットは妊娠しとる。

 ワイが壁に、生贄になるべきや。

 いつもの事やし。


「若様………大丈夫です。この私にお任せください。先に逃げて下さい」

「無理やアネウット?」


「この若様の護衛アネウット。必ずや若様を守り抜いてみせます。相手が例えば魔王だとしても」

「アネウット………」


「聞こえましたよアネウッ〜〜〜ト。誰が魔王ですか?」

「当主様。ただの例えです」


「悪意がありすぎでしょう! そして私から逃げ切れると………?」


「例え魔術の大家プラチナム家当主と言えども、私が本気で護衛についた以上。突破する事など………何人であろうと出来るとお思いですか?」


「………質問に質問で返してはいけませんよ。アネウット」


「対当主様用、最終決戦兵士アネウット。アイアン様ではなく、若様を守る為に、この名前を名乗る事になるとは………」

「ファッ?」


「ちょっと待ちなさい! なんですか? その愉快な二つ名は………あ、いえ、わかりました」

「何がわかったんや? 母上」


 ワイには、既にして何もかもわからんで。


「あのアホ夫アイアンが、貴方につけた二つ名ですね。アネウット」


 ………父上。


「はい。当主様の癖。弱点。ストロングポイント。全て旦那さま。アイアン様より伝授済みです」


 アネウットは誇らしげに胸をはった。


「………なんですって?」

「私は元々、当主様からアイアン様を守る為の訓練を、アイアン様より受けております」


 初耳や。

 父上、そんな事を………


 そんなに母上を恐れとったんか?

 賢い母上の考えは、ワイ君にはよくわからんが………父上の考えもよくわからんな。


 わからん

 ワイには、何もわからん。

 わいが無知の無知に目覚めそうになってると、母上は………


「私に隠れて浮気しただけで無く、アホアイアンめ。そんな事を………」


 アホアイアンめって………母上。


「はい! 私の守りは鉄壁です。護衛対象は、アイアン様から若様へと変わりましたが………」

「どうやら、お仕置きが必要な相手が、二人から三人に増えたようですね!」


 3人目とは父上のことか?

 父上………思い出すのは、父上が怪獣にヤラれた日の恐怖。


 あの日、ワイ君は母上の事が怖すぎて、震える事しか出来なんだ。


 アネウットが、ギャオった母上を煽った。

 その結果。

 母上が、あの日見た『ギャオオンモード』に突入したかもしれん。


 ワイ君、本日2回目の修羅場に突入。

 精神が限界に近い。


「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 ワイは力の限り絶叫した!


「わ! ビックリした!」 

「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「わ、若様。叫んでないで避難してください!」

「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 ワイ君

 たま〜に、おかしな悲鳴をあげる。

 その時の脳内はこんな感じで

 パニックになるのは、こんな時や!


 ワイにとって世の中には、理不尽な事が多いでな〜〜〜


 定期的に叫んで発散でもして無いと、やってられんのや。

 それに………


「怪獣が現れた時くらい。パニックになって叫んでもええやろ」

「誰が………怪獣ですって?」


 母上に聞かれた。

 アカン!

 怪獣を怒らせてもうた!

 ワイ君は、もう駄目かもわからん!




◆◆


 恋愛感情をコントロールしたい

 モテない人間は、恋愛感情にコントロールされミスるから。


 モテる人間は、恋愛感情も異性も、コントロール出来るが………


 モテない人間は、恋愛感情からも異性からも、コントロールされてしまう。





 が、悪女にもてあそばれるのは楽しい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る