第300話

堪え切れずハンドルに顔を埋めて、唇を噛んで声を押し殺した。




同じ想いで泣いていても、抱き合って慰めあえない。



伝えたいことは山ほどあるのに。

一つとして言葉に出来なかった。





どうしようもないと知っていても叫びたくなってしまう。


こんなのありかよって。





「――行くなよ…… 傍に居ろよ―――っ…!!」





我慢していた気持ちを吐き出せば、堰を切ったように涙が流れ落ちた。






まだまだ物語の途中。


気持ちが通じ合ったままの別れがこんなに辛いとは知らなかった。


苦しくて、苦しくて、息を整えることすらまともに出来なくて。


縋るように追いかけたいと思った。







笑って見送るなんて無理がある。


歯を喰いしばって、涙を堪えて。

今にも車から飛び出しそうな自分を必死で抑えたんだ。








"またね"


別れ際、渚は微笑んで見せた。






俺も上手く笑えていたんだろうか。


渚が心置きなく発てるよう、ちゃんと後押ししてやれたんだろうか。






いつの日かまた君に逢えたら聞いてみよう。


そしたらお前は茶化すように言うだろうな。


情けない顔して笑ってたと―――――…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る