第230話

震えるほど哀しかったのに。

正気じゃいらんねえくらい取り乱してたはずなのに。

流れる雲の中で孤独に立ち止まるしかなかった。




それでも状況は目が回るほど変わる。

雲の切れ間から見えた光が真っ直ぐに俺を射した。




車に乗りこむ直前に渚が躊躇うように俺を見た。

そして横にいた年輩の刑事に何かを話している。



遠巻きにゴクリ喉を鳴らして見ていると、渚が浅く一礼して群から抜け出た。




状況を汲めず、ゆっくりこっちに近づいてくる渚を唖然と見つめる俺の背中を押したのは一世。

掴んでいた手を放したかと思えば俺を前へ押し出す。



渚を見つめ、少しずつ縮まる距離がもどかしかった。


駆け寄りたいのを堪えて慎重に一歩を踏み出すと、渚の唇が動いた。

聞こえなかったけれど、「譲」と俺の名前を呼んだに違いない。



そして触れられる距離になった時、やっと向けられた遠慮がちな笑みが胸に沁みる。




「ごめんね」


「何なんだよ、一体どうなってんだよ―――」


「今は話せない。全部一世から聞いてほしい、」




零れ落ちた髪を耳にかけ、伏目がちに話す。

そして俺の手を取って掌に電話を置いた。



自分が海外にいる時でも気兼ねなくかけてこられるようにと、兄ちゃんが渚に買い与えた電話だった。

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