第2話 高校受験

 中学三年、学習塾の夏休み合宿。塾講師に呼ばれて面談がある。

「柄沢さん、志望校はこのままでいいの?」

「はいっ!」

 実力は不足しているだろうが、この高校しかないと決めていた。他の学校に魅力は感じていなかった。何者になれるかわからないのに、何をやろうか決められない。だから、普通科。それも制服のない私服の普通科。スカートが嫌いだった。服装を自分で決めていい学校、そんなのあるんだって目から鱗が落ちた。自分で決める。母からはTシャツにジーパンなんてやめてと、もっとオシャレしなさいとぼやかれるけれど、私にとっては一番のオシャレだ。シンプルなほどセンスよく着こなすのは難しい。

 だけれど。

「柄沢さん、単願で直近の模試もD判定よ。変えないとどこにも入学できないのよ」

「え……あ、はい」

 どんな返事をしたかうろ覚えで、ただ自分には志望校に入学する資格がないのだろう。どこにも入学できない。どこにも入学したくない。志望校じゃなければどこだって同じだ。その面談以降、記憶は薄暗くあやふやだ。両親との口喧嘩にも飽き、担任からの忠告も笑ってやり過ごした。笑ってるうちに相手が呆れかえって諦めることを知った。

 卒業式をも笑って過ごした。同級生の誰もが、私が入試を受けてないのを知っていた。そして、翌日から家から一歩も出ない生活を始めることとなる。世界が私を欲してないように、私もこの世界に希望は求めない。

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