短編集

壊時/Kaito

嘲笑

『そんな真っ直ぐな君が──大嫌いだったの。』

ちらつく夕日が瞳に刺さる。

眩しさに目を細めた俺を、彼女がいつものように嘲笑った。

次の瞬間、冷たい鉄が、あの首に沈んでいった。


──懐かしい夢を見ていた気がする。


目を覚ますと、鼻の奥には鉄の匂いがこびりついている。

まだ9月だというのに、やけに寒い。汗を吸ったシャツが肌に張りついて気持ち悪い。


「……頭が痛い。」


起き上がり、鼻根を抓む。

無機質な時計は7時半を指している。昨日は何時に寝たんだっけ。

どうでもいい。


「休むか。」


会社に仮病を伝え、湿気を吸った布団に沈む。


記憶が、勝手に蘇る。

罵声を浴びながら家を出る朝。

紙屑が飛び交う教室。

コンビニの廃棄を漁った夜。

押し付けあった甘ったるいジャムのパン。


──それを、いつも嘲笑いながら見ていた彼女。

あの日逃げた自殺した卑怯者。


それから俺は、何のために生きているんだろう。

世間の言う自暴自棄ってやつか。


「……めんどくせえ。」


頬を伝う涙を拭おうとしたが、手は動かなかった。

……嫌気が差す。


腹いせに段ボールからジャムのパンを引っ張り出し、乱暴に戸を開ける。

隣室の怒声を無視し、懐かしい道を進む。


陰気で誰も立ち寄らない、あの公園へ。


「遊びに来たぞ、███。」

石の前にパンを置く。


生温い風が、何かを嘲っているようだった。

返ってくるはずのない声を、しばらく待つ。


「……何やってんだろうな。」


もう、俺以外に俺を嘲笑う人はいない。

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