第2話 右腕を失った
つい数分前まで仕事をしていた俺がこの状況に困惑していると、一際豪華なヒラヒラした服を着た爺さんが話し掛けてきた。
「ノモニナハマサキ?タエキゼナハ、ウュリ?」
威厳のある厳格な声だ。
しかし……何語だ?聞いたこのない言葉。
「アイムジャパニーズ。俺は日本人です」
取り敢えず英語なら世界共通だと思ったのに、老人の顔にみるみる怒りが満ちていく。
「ダノモニナハマサキッッ!!?ロエ、タッコッ!!」
タコ?悪口言われてるのか!?凄く怒ってるぞ。
俺が何かの儀式を邪魔した?ローブを着た妖しい奴がいるし、床には魔法陣のような模様が描かれている。
言葉がわからないから釈明ができないな。
すると老人のすぐ後ろにいた青いマントを羽織った金髪の若い男がニヤニヤ笑いながら俺を見て、老人に何かを吹き込む。
老人は「よし、やってみろ!」と言わんばかりに同調している。
言葉がわからないから何に同調したのかは不明だ。
それから青マント男が俺の前にやって来てゴチャゴチャと何か言っているが、どう答えていいのか……。
彼が俺に向かって杖を構えた。そして何やら呪文を唱え始める。
杖の先端に謎の光が集約していき、その光が炎の玉に変わっていく。
間違いない……これ魔法だ。そして狙いは……俺!?
「やめろっ!」
そう言いながら横へ飛んだ。
俺が居た場所に火球が着弾し、花火のように炎が爆発。
「な、何しやがる!」
現在俺はスーツを着てネクタイを締めているわけだが、目の前で激しく燃えるこの炎に包まれていたら服は燃えて丸焦げになっていただろう。
周りに集まった人々は燃え盛る炎に怯える俺を見て笑っている。バカにしたようにゲラゲラ声を出してい者もいる。
そんな人々から色々言われているが言葉がわからない。
しかし、雰囲気でなんとなく分かる。
俺が受けているこいつらの感情は怒り、嘲笑、蔑み……。俺はたぶん罵声を浴びせられている。
青マントが再び杖を俺に向けた。
その顔は口角がつり上がり、ニチャァっと汚く笑っている。
殺される……!
「うわぁああああああッ!」
青マントに背を向けて走った。
だが、彼が放った風の刃が俺を追跡して。
「ぐあっ!」
俺の右腕に直撃する。
風の刃が右肘の辺りをスパっと切断した。切れた腕は地面に転がり、俺は走った勢いのまま床にヘッドスライディング。
腕が取れたッ!!?
遅れて切断面から大量の血液が溢れる。
俺は咄嗟に左手で切断面を握り潰た。
大量に出血するのは危険だと判断したのだ。
遅れて右腕に激痛が走った。
「ぐぎゃぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!うでがぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!俺の腕、はぁー、はぁー、俺の……はぁー、はぁー」
腕を切り落とされるなんて夢にも思っていなかった俺は、右腕の切断面を見て脳が焼き切れそうなっていた。
左手だけでは出血を抑えきれず、ボタボタと血が流れ出ている。
すると――。
「「「「「ブッハハハハハッ!」」」」」
「「「「「アァハハハハハッ!」」」」」
「「「「「ギャハハハハハッ!」」」」」
取り囲む連中が俺を指差して笑った。
くっそ……。意味わからねぇよ!
いだだだ……。ヤバい。滅茶苦茶痛い。
止血しないと本当に死ぬ。
それから暫く笑われていた俺の元に神官ぽい服を着たおっさんが来た。
おっさんは腕の切断面に手を翳し、何やら呪文を唱える。
すると翳した手から光が出て、腕の切断面が新しい皮膚で塞がった。
なんなんだよ……。
どうなってるんだ……。
それから、老人の命令でぐったりしている俺を兵士数名が拘束して何処かへ連れて行く。
血が抜けて体がだるい。
抵抗する気は起きなかった。
結局俺は狭い石の牢屋に閉じ込められた。
◇
間違いない。ここは異世界だ。
電気がないから文明レベルは地球の中世くらいか。
畜生、野蛮人共め……。
腕を切られて痛み悶える俺を笑ってバカにしていた。
いや、人間なんてそんなものか……。
小学6年生の頃、虐められていた幼馴染の女子を助けたら俺が虐められた。
あの時も不良グループにボコボコに殴られて笑われたな。
俺が人間不信になった切っ掛けだ。
この話には続きがある。
その幼馴染とは色々あって高校で付き合ったのたが、親友だと思っていた男に寝取らた。
思い出したくない記憶だ。
俺は今まで他人と関わりたくないから目立たないように生きてきた。
それでもカネは必要だから、何一つ文句を言わず辛い仕事をこなしてきた。
別に誰にも迷惑をかけていない。ただ、真面目に生きていただけなのに……。
失った右腕を動かす。
痛い……、いたたたた。
傷は塞がったけど動かすと死ぬほど痛い。
くっそう……くっそ!
利き手の右腕無しでこれからどうやって生きていけばいいだよ。
いや、そもそもこの後、俺は処刑されるんじゃないか?
俺が何したっていうんだ?
何故こんな所に来てしまった?
わけのわからないことを言われて、腕を切り落とされて……、理不尽すぎるだろう。
あの白いフェザードラゴン、ソウルイーターは言っていた。魂を支配し統べる力が俺に引き継がれると。
しかし、特別な力を得られた感じはしない。
もし俺に凄い力があるなら――。
この狭い牢から生きて出られたら――。
滅茶苦茶強くなってあそこにいた連中を全員殺す。
牢屋に放り込まれてから数時間経った。
あれから誰も来ない。
ああ、眠いな……。意識が朦朧とする。ダメだ、瞼が重い……少し眠ろう。
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