心霊写真

原口 モ

第一話 写真

「この写真を見てもらえますか」

 

 彼はそう言って、スマートフォンの画面を私(岩田いわた正平しょうへい)に見せた。

 

 彼は木下きのしたという男。知り合ったのは私が勤めている会社に、彼がアルバイトで入った二週間ほど前。年齢も近く時々話すようになった。ある日の休憩中、喫煙所で一緒になり雑談をしていた。ひとしきり話をして、しばらく沈黙が続いていた。

 

 沈黙をやぶり木下さんが、こうきりだしてきた。

 

木下「ところで岩田さん。オカルト系とか興味あります?」

私 「え? 幽霊とかですか?」

木下「はい。幽霊とか未確認のやつとか。呪物とか心霊写真とか……」

私 「どうしたんです急に。まぁでも、嫌いじゃないですよそういう話は」

木下「幽霊見たこと……」

私 「ないですないです。霊感とか全然ないですよ」

木下「信じますか? その…… オカルト的なこと」

私 「信じたいという気持ちはありますね。でも遭遇するのは怖いから嫌です」

 


 喫煙所に今は二人しかいない。木下さんは入り口の方を気にするしぐさをし、人が来ないのを確認しているようだ。

 

木下「この写真…… 見てもらえますか」スマートフォンの画面を私に見せる。

私 「うわ!」思わず声がでた。

 

木下「どう思います?」

私 「な、なんですかこれ……」

木下「僕の妻が撮った写真なんですが、わかりますよね?」

 

 木下さんのスマートフォンの中の画像は、ひと目でそれとわかるものだった。いわゆる心霊写真とよばれるものだった。なんとなくそう見えるとか、よく見るとここに顔らしいものが、とかではない。

 

木下「これ娘なんですけど、後ろの方に……」

私 「わかりますわかります。さすがにわかりますよ」

木下「どう思います?」

私 「いやぁ…… 霊感とかないと思うんですけど、ちょっと怖いですね」

 

 画像には三、四歳くらいの女の子が写っている。公園で片手に小さなバケツ、反対の手に泥のついたスコップを持って楽しそうに笑っている。とてもかわいらしく、微笑ましい写真。

 

 ところが…… その女の子の後方に二人の人物が写り込んでいる。中学生男子だろう。向かい合って立つ二人の少年たち。二人のうち一人だけようすがおかしい。

 頭部が………… なんと表現したらいいのだろうか。なんかこう、グシャッとなっている。もう一人の少年と例の少年の首から下は鮮明に写っている。首から上だけが物凄いブレかたをしている。体がなければ、そこにあるのが頭や顔とわからないほどに。

 

木下「怖いですよね」

私 「不気味ですね」

木下「中学生ですかね」

私 「そうですね。うちの息子と同じ制服で…… す」


──ん?

 

木下「どうかしました?」 

私 「あ…… いえ。うーん……」


 

──横田くん? 

 

 

 私は画像に写る二人の少年の一人が横田よこたくんに似ていると思った。横田くんというのは、私の息子、正太しょうたの友達。小学生のころから仲が良いみたいで、家にもよく遊びにくる。正太は、横田くんを親友と言っていた。

 

木下「なにか気になるところがあるんですか?」

私 「ええ、まぁ。 …………拡大してもいいですか?」

木下「もちろんです。どうぞ」 

 

 スマートフォンの画面、二人の少年が写っている部分を指でひろげる。拡大された二人の少年たちをよく見る。

 

 

私 「………… まさか……」

 

 

 

──正太……

 

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