第7話 店先の恋占い(前編)

 新年の賑わいがひと段落した商店街では、新春開運フェアなるイベントが開催されていた。

 商店ごとにそれぞれ『福引き』『おみくじ』『限定グッズ』などの工夫を凝らし、正月らしい華やかな雰囲気に包まれている。『花ことば』も例にもれず、店頭に『ラッキーフラワー占い』と『恋みくじ』を並べていた。


「じゃーんっ! できましたー! これ、めっちゃ可愛くないですか!」


 晴が元気よくラミネートされた恋みくじボードを掲げる。

 手書きのイラストには、小さな天使とハートマーク。そして色とりどりの花言葉が添えられている。くじ自体は色紙を折りたたんだもので、花の名前と恋にまつわる運勢が書かれているようだった。


「……何でウチの花屋が恋みくじなんだよ」

「だって、花言葉って、ロマンチックじゃないですか! 新春は恋のチャンスですって、商店街のチラシにもありましたし!」


「そりゃまあ、言われりゃそうかもだけど……」


 陽向は苦笑しながら、設置されたくじ箱をじっと見つめる。


「せっかくだし、桐島さんもやってみましょうよ!」

「いやいや、俺はそういうのいいって」

「じゃあ、店長! 店長もぜひ!」

「ふふ、私も……見てるだけで楽しませてもらってますから」


 やんわり断ろうとした朔夜も、晴の強い押しにとうとう根負けした。


「……せっかくなので、みんなで引きましょうか」

「わーい!」


 佐伯の声が店内に響く。その勢いに押され、陽向と朔夜は渋々くじ箱の前に立つ。


「はい、じゃあ陽向さんからどうぞっ」


「……何で佐伯が仕切ってんだよ……」


 文句を言いながらも、陽向はひとつ、色紙の束からくじを引く。


「『心の扉、そろそろ開く時かも?』……なんだこれ」

「おお~っ! ロマンチック!」


「別にロマンチックじゃねぇだろ。何、これ……」


 陽向が半ば照れたように紙を折りたたむのを横目に、朔夜もひとつくじを引いた。


「『近くにいる誰かの優しさが、あなたの未来を変えるでしょう』……だそうです」


 読み上げた後、朔夜はくすっと微笑む。


「……なんだか、陽向との合わせたみたいですね」

「は、はぁ⁉ 何言ってんすか、店長……! ただの運だし、こんなの。大体、俺はみくじなんて信じてないつーか」


 陽向の動揺に、佐伯が目を輝かせた。


「やっぱり、お似合いなんですよ、お二人って!」

「なっ⁉」


 盛大に咽た陽向が、思わず咳き込みながら佐伯を見る。


「な、なに言ってんだ佐伯⁉ ふざけんなよ、そういうの!」

「えっ、でも本当のことじゃないですか? 見ててすごくいい雰囲気っていうか、バランスいいなぁって……」


 悪気のない笑顔に、陽向はもう言葉が出てこなかった。一方で、朔夜は一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに目を細める。


「そんなふうに見えましたか?」

「はいっ! 店長も桐島さんも、すごく優しいですし!」


 その言葉に、陽向は顔を背けたまま、小さく唸った。


(なんだよ、この空気……!)



* * *


 午後、客足が一段落した時間帯。陽向はカウンターで伝票整理をしていたが、どうにも集中できなかった。


(『心の扉』ってなんだよ……開くって、どういう意味だよ……)


 頭の中をぐるぐると巡る言葉と、佐伯の無邪気な笑顔。そして朔夜の、あの笑顔。


(……ちょっと待て、なんで今、こんなに意識してんだ俺)


 思わずペンを強く握りしめる。けれど、胸のどこかが妙に熱く、ざわついていた。

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