夢追人 ~幻夢《ゆめ》、現《うつつ》…で終わらない。だから、復讐しよう~

天風 繋

序章 夢世界の住民

第0話

夢。

寝ている時、脳が見せる幻・記憶。

時に、願望を投影する鏡のような物。

だが、その夢が夢で終わらなかったら?


僕は、不思議な夢を見ていた。

夢だと、分かった理由。

まあ、現実ではありえないからだ。

だって…。


紘夢ひろむく~ん」


猫なで声で、幼馴染みの女子が僕の腕に抱き着いていた身体。

有り得ない。

だって、こいつがこんなことをするはずがない。

いつものこいつ…神宮院 悠花はるかは、僕を張本人なんだから。

だから、これは夢だ。

じゃなければ、僕か悠花が狂ったとしか思えない。

僕らは、どこか知らない個室のソファに座っている。

そのソファは、個室を殆ど占領している。

ネットカフェのような場所なのかもしれない。


「ねぇ、速くサインしてよぅ」


サイン?なんの?

ソファの前のテーブルの上にバインダーに挟まれた書類があった。

『住民登録』と書かれている。

ふむ、何だこれは。

怪しい書類にサインをしたくはないが、いつもの悠花ならしなければ怒り出す。

折角の夢見心地が悪くなるのも…なぁ。

まあ、夢の中の事なんだから。

サインくらい、いいか。

僕は、署名をする。

万代もず 紘夢』と。

書いた瞬間だった。

書類が、眩い光に包まれたのは。

そして、辺りの風景も様変わりした。

何もない殺風景な空間。

真白で、見渡す限りに何もない。

そんな、よくわからない空間に僕は立っていた。

ただ、どこからか耳障りな女の高笑いが聞こえてくる。

胸糞悪い声だ。

そんな、声を聞いていると次第に意識がしっかりしていくような気がした。



妙な夢だった。

それに、夢なのにと認識できているし、鮮明に覚えている。

あれは、本当に夢なのか?

まあ、悠花があんなことをするとは思えないから夢なんだろうけど。

僕は、ベッドから這い出て着替えをする。

壁に掛かった制服へと着替える。

ブレザー…胸ポケットには大きく校章が刺繍されている。

また、ブレザーの至る所に縫った後がある。

何度となく切り刻まれた歴戦のブレザー。

その度に、同色の糸で縫った。

お陰で、すっかり手芸が得意になったのは言うまでもない。

あと一年半も通うというのにこのブレザーは持つだろうか。

成長期はほどほどに終わりを迎えているから丈なんかは変わらないだろう。

だが、今と同じように虐めに遭い続けていれば持たないかもしれない。

10月1日。秋の衣替えの時期。

このブレザーも、4カ月ぶりになる。

夏場は学校指定ワイシャツにネクタイだった。

まあ、夏場でも長袖だったけど。

身体中に痣だらけだから。

僕の虐めは、学校だけではない。

自宅も心休まる場所ではないから。

父親には、殴られ蹴られる。

母親は、専業主婦のはずなのに日中に自宅にいる事も少なく夜も父親が帰ってくる前にギリギリ帰ってきて父親の飯だけ作る。

帰ってきている時も、父親と同じで殴られる。

ただし、物で殴ってくる。

正直、居心地は悪い。

出来る事ならこんな家出て行きたい。

でも、出来ない。

なるべく家にいる時間は、短くしている。

放課後は、コンビニでバイトに明け暮れている。

まあ、バイト先でも虐めに遭っているけど。

行き辛い世の中だ。

着替えを済ました僕は、リビングを通って玄関へ向かう。

リビングのテーブルの上には、100円玉が置かれている。

これで、昼飯を買えって事だろう。

今時、100円で何が変えるというのだろう。

少なくとも、パンすら買う事は不可能だ。

スーパーでならギリギリ帰るかもしれないけれどこんな時間にやっていないから今日も昼飯はなしだ。

僕は、玄関を出る。

肩には、通学バッグが掛けられている。

この鞄も所々縫った後があるし、所々黒ずんだり色彩に富んだ見た目をしている。

油性の絵の具やマジックは流石に色を落とすことは出来なかった。

学校に行くのが憂鬱で仕方ない。

学校までは、徒歩で1時間ほど掛かる。

自転車はないし、電車やバスに乗ることもできない。

毎日、徒歩で向かっている。

朝6時に起きて学校に向かう。

放課後は、自宅と学校とのちょうど間位にあるコンビニでバイトだ。

24時まで働いて帰宅。

風呂は抜かれているから、シャワーと言いたいところだけどお湯を使うと怒られるので冷水シャワーだ。

洗濯も自分でする。

でも、洗濯機を使わせてもらえないからいつも手洗い。

自室に、室内干しだ。

バイト代は、ほとんど親に持っていかれる。

通帳は、親が持っている。

そのほとんどが、両親のギャンブル・交友代に消える。

ホント、嫌になる。

学校までは、凡そ5km。

どこかに行きたい。

こんな生活嫌だ。



なんとか、学校に辿り着いた。

汗びっちょりだし、疲れた。

僕は、机に突っ伏してホームルームまでやり通す。

別に寝るわけではない。

でも、眠くはある。

教室に人が増えていくのが分かる。

そして、陰口を叩かれているのも聞こえている。

「臭い」やら「寝る位ならこなきゃいいのに」とかね。

確かに、僕も来たくて来ているわけじゃない。

出来ればこんなところ来たくない。

あー、やばっ。ねっむ………。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る