第11話◇春の日差しの中で夢想する乙女と夢想する親父◇

「えー、であるからしてぇ。このような文法を用いる場合……」


 5月が近い春の教室。あと一週間もすればゴールデンウィークが始まろうとしている温かい日差しの中、友梨佳は昨晩経験した味わったことのない極上の甘美なる時間を思い出して頬を緩ませていた。


 教師の話している内容もまるで耳に届いてこない。

 完全に上の空。夢見心地であった。


(ぁあ、いま思い出しても恥ずかしいッ♡ 昨日はお父さんにいっぱい感じさせてもらっちゃって……頭の中真っ白になっちゃうような気持ちよさだったなぁ)


 あの後、友梨佳は結局夜中まで目を覚ますことはなく、夜のとばりが下りて日付が変わるまで意識が戻ることはなかった。


 全身は強い、しかし心地良い脱力感に見舞われており、大好きな父が自分を包み抱きながら寝息を立てている顔がすぐ近くにある状況に顔を赤くしたのである。


 いつの間にかパジャマに着替えさせられていた自分の状況を見て一瞬夢かとも思ったが、身体に残っている心地良い多幸感が先ほどまで行っていた営みの快感を蘇えらせた。


 自分が快感のあまり気を失ったことをそこでようやく理解した友梨佳は、たった一回で果ててしまった自分の不甲斐なさを呪った。


 しかし今思い出してもあの快感は忘れがたい。


 頭の中身が全部はじけ飛んで真っ白に溶けてしまうような絶頂に次ぐ絶頂。


 独りの行為では絶対に味わうことができなかった奥深いところで身体を下から突き抜けていく快感は、既に昼食を過ぎた午後の授業が始まった今でさえ意識が蕩けるのを止めることができなかった。


(ふへへへぇ……いっぱい気持ち良くなってぇ。お父さんの腕に抱かれながらうとうとする時間。すっごく幸せだったなぁ……ああ、ダメだぁ、嬉しすぎて頬がゆるんじゃうよぉ)


 涎も垂らしそうな勢いで友梨佳の頬は緩みっぱなしだった。


(ハッ……そういえば私、ご奉仕ほとんどできてない……)


 体を重ねるって互いの気持ちの交換だ。与えられてばかりではいけない。


 図らずも愛する父とまったく同じことを考えた友梨佳は愛撫を受けてばかりで営みの最中に受け身になりすぎていることに気がついた。


(でも仕方ないよねっ。お父さん凄く上手だし、私のこといっぱい可愛がってくれて……動く余裕もないくらい気持ち良くしてくれるし。ああ、でも、マグロ女とか思われたらどうしよう!!)


 思考はあっちこっちにループして昨晩の快感を思い出しながらまたニヤける。


「(……っちゃん)」


(そうだ。生理も近いし、さすがにその間はエッチできないよね。おちんちん入れて貰えないのは辛いけど、私もご奉仕しなくっちゃ! お口ご奉仕ももっと上手くならないと。またバナナで練習しようかな。でも大きさは全くちがうしなぁ。子供の頃お風呂でみた時に想像してたのより全ッッ~ッ然ッ!大きいんだもん。お口に入らないのがもどかしいなぁ)



 まさか教師や周りのクラスメートも真面目な優等生である友梨佳が如何にして男性のナニかをどうやってしゃぶるかを悶々と考えているなど思いもしないだろう。


「(……ちゃんっ、友梨佳ちゃん……)」


(やっぱりちゃんしたディルドとか買って練習した方がいいのかな。でも模型っていってもお父さん以外のアレ咥えるのってなんか裏切ってるみたいで嫌だし。やっぱりお父さんに頼んで実践訓練するしかないか。でもサプライズで喜ばせてあげたいしっ、ぁあどうしたら良いんだろうッ!! いっそ大根とか!? 流石にそこまで太くはなかったけど。でも大きめの人参くらいはありそうだよね。多分ジュースのペットボトルくらいの太さはあっただろうし、顎がすんごい痛いけど、あれをこうしてこうやって。あそこが一番気持ちイイってネットで書いてあったし)


「(友梨佳ちゃん、友梨佳ちゃんッ、先生呼んでるよ……)」

「ふえ!?」


 隣の席にいるおっとりとしたクラスメートである親友が自分の名前を呼んでいることもしばらく気がつかなかった。


「(英文訳してって)」


「すみません、えっと、(ごめん、教科書何ページ?)」

「(大丈夫? 44ページだよ。3行目から)」


 仲の良い友人が教えてくれたページの英文を訳していく。


 意識がぼけっとしていたが、ここは先日予習しておいた場所なので訳すのにはさほど苦労しなかった。


 ぼんやりしていたことを教師にからかわれた友梨佳は赤面しながら席に座る。


……


「今日はどうしたの友梨佳ちゃん? ず~とぼんやりしてて上の空だったよね。具合でも悪いの?」

「あ、瑠璃ちゃん、う、うん。ちょっとぼーっとしちゃって」

「本当に大丈夫? 保健室いったほうが……」

「ううん。大丈夫。そんなことないよ」


 なおも顔を赤くして照れ笑いをする友梨佳をみて疑問符を浮かべるクラスメート。


「無理はしないでね。大好きなお父さんが心配しちゃうでしょ」


 親友であるクラスメート『瑠璃』は友梨佳が父に対して特別な感情を持っていることを知っている唯一の友人である。


「うん、そうだね、へへへ」


「?」


 その表情の真意を親友が知ることになるのはまだ先であるが、顔つきを見る限り悪いことではなさそうだと思った彼女はそれ以上の追求はやめた。


 友梨佳はその日1日ずっとぼんやりしていたが、学校が終わる頃になるまでその状態だったことを心配した親友に謝ってばかりだった。





◇◇◇





「本部長、嬉しそうですね。なにか良いことでもあったんですか?」


「ん、そうかな」


 いつものように会社での仕事をしていると部下の女子社員が声をかけてきた。


 どうやら友梨佳との甘々な週末を思い出していたことがバレたらしい。


「あ、分かった。例の娘さんとなにかあったんですね。本部長ってホントに娘さんのこと大好きですもんね」

「はは、分かっちゃうかい? そんなに顔に出てるかな」


 お茶くみの女子社員に指摘されてニヤついている顔を引き締める。


 イカンイカン。仕事中は切り替えなければ示しが付かない。


 しかし長年募らせてきた想いを叶えることができた嬉しさはそう簡単に律することなどできそうもない。


 こちとらずっと友梨佳を大切に育ててきたんだ。そして一人の女として見てきた。


 その彼女と相思相愛だった。これがどんなに嬉しいことか。


 顔がニヤけてしまうのも無理からぬ話と許してほしいが、そんなことを部下達に自慢して回るわけにもいかないのが辛いところだ。



「ふぅむぅ。今日は残業しなくても済みそうだな」



 一通りの仕事を終わらせパソコンを弄りすぎて硬くなった身体を背伸びでほぐす。


 コキコキと身体がなって筋の硬さが取れていく感覚が心地良い。


 この年になると営みをそう何度も何度もするのは中々大変になってくるだろう。


 サイズ的な問題で女性に対して深い挿入を行ったことのない俺は事実上友梨佳で童貞を捨てたようなものだ。


 あれほどの深い絶頂感と満足感、加えて心地良い脱力感を味わったことはないが、身体の中のエネルギーがごっそり抜け落ちたような感覚があったのも事実なので、調子に乗って何度も射精しては身体が参ってしまう可能性もある。



 精の付くものを積極的に食べておく必要があるかもしれないな。


 毎日ウナギを食べるわけにもいかないだろうから山芋や青魚が妥当なところか。


 そんなことを考えながら、その日の仕事に精を出した。



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