第8話◇ケジメの朝と日曜日のデート◇

 朝の濃厚な密着を楽しんだ俺達は、せっかくの日曜日なのだから、恋人らしくデートに出かけようということになった。


 友梨佳はシャワーを浴び直して着ていく服を選びたいからと自分の部屋に戻っていった。


 今は洗面所で髪のセットをしているようだ。今時の女の子らしいおしゃれに興じる彼女をみるのは新鮮で良いな。


 恋人との初デートだとウキウキした可愛らしい顔を見せてくれて、本当に自分の娘とそういう関係になったのだなと実感した。


「お待たせお父さん」

「よし、では行こうか」


 いつものように友梨佳とお出かけをする際はお互いラフな格好で行くことも多かった。


 しかし今日の友梨佳は何もかもが違う。


「ねえ、どうかな……」


 友梨佳は何かを期待するようにモジモジと身じろぎしている。

 もちろん何を言いたいのかはよく分かる。


 友梨佳は訴えているのだ。女の子が彼氏に服装を褒めて欲しい心理くらいは俺にも分かる。


「とても似合ってるよ友梨佳。凄く可愛い」


 その言葉に満足そうに笑う友梨佳。言葉そのものは陳腐だが、ストレートな褒め言葉は彼女をとても上機嫌にしてくれた。


 頭を撫でようとも思ったがせっかくセットした髪が乱れてはかわいそうなので猫を可愛がるように顎に手をおいてコリコリと擦ってみた。


「ふにゃぁ~ん♪♡」


 猫真似をしてスリスリとする姿は凶悪に可愛い。

 これはなんともくるものがあるな。


 可愛がる俺の手を取って甘える姿は本当に子猫のようだ。


 しかし昨日まで処女だったはずの彼女は、蠱惑的な瞳を向けながら握った指を口に咥える。


「私は、いつでも良いからね……♡」


 ドキンッ……


 色っぽく、男を誘い込む蝶のような魅惑的な表情。

 思わず俺の下腹部から熱い疼きがムクムクと芽吹き始めた。


「魅力的な提案だけどせっかくの初デートだからな。メインディッシュは最後にしよう」

「ふふ、そうだね」


 俺は車に乗り込みエンジンを掛ける。

 シートベルトを着けている友梨佳にふと気になったことを聞いてみた。


「そうだ、今日は例の男の子とデートだって言ってたよな。その約束はどうしたんだ?」

「うん、さっき電話して、ちゃんと断ったよ。凄く悲しそうな声だったけど、自分に嘘はつけないから。いっぱい謝った」


「そうか。彼には悪いが、俺も譲れないものがあるからな。失恋も人生の良い経験になる、とは言えないかもしれないが」

「そうだね。彼、すごくいい人だから、いい人が見つかって欲しいって思う。私は、縁がなかったんだよ」

「少し惜しかったか?」

「お父さんは、それでいいの?」

「絶対に渡さないけどな」

「えへへ。うん。私は、お父さん以外、嫌だもん。冗談でも、悲しいこと言わないで」


「ごめんよ」


 いつもの冗談のつもりだったが、友梨佳が本当に悲しそうな顔をするので自分の失態を恥じた。


 いかんな。デリカシーのないこと言ってしまった。これだから女に騙されるんだ俺は。


「もう言わない。友梨佳は俺のものだ。誰にも渡さない。絶対にな」


 身を乗り出して目を閉じる友梨佳に口づけで応える。


「ん……んはぁ……お父さん……」

「さあ、楽しいデートの始まりだ」


「うん♪」


 さて、これから楽しくなるぞ。





◇◇◇




「ねえお父さん、まずはどこに行くの?」

「まずは朝の公園だ。昼になると混み合うからな。午前中はのんびり過ごそう。お昼ご飯はシャルロットメリフェーゼを予約してある」

「え!? あそこって中々予約取れないんじゃ」

「お父さんは社会的に偉い人だからな。融通してもらった」


 なんて言っちゃいるが、実は予約サイトに張り付いて席が確保できるまで粘ったのだ。


 何しろ秒で埋まってしまうからな。


「お父さん凄いッ」


 楽しそうな笑顔の友梨佳。

 シャルロットメリフェーゼは「お手軽フレンチ」がコンセプトの女の子に人気なお店でかなり予約が困難だ。


 フレンチというと敷居が高そうだが、店長がこだわりのある人で若い女性にもお手軽にフレンチを楽しんで欲しいという心意気で始めたのだが、あれよあれよという間に人気店になってしまい、現在は予約2ヶ月待ちという状態だった。


 密かに以前から予約していたのを友梨佳には内緒にしていたのだ。


 日曜日はいつも二人で買い物に出かけるのが定番だ。

 今まではデートといっても親子のそれだった。

 しかし今日は意味合いが全く違う。


 恋人としてのデートになるなんて夢見てはいても現実になるとは思っていなかった。


 行動そのものは間違っていたが、昨日友梨佳と結ばれて本当によかった。


 せっかく予約した人気店でのデートの予定を他の男にとられてしまうところだったのだと思うと戦慄が走る。


 そんなことを考えながら車を走らせた。

「んふふぅ~、デート♪ お父さんとデート♪」



 友梨佳は楽しそうだ。鼻歌なんか歌いながら窓から入る風を楽しんでいる。


 車で移動するあいだもおしゃべりに興じる。

 親子の会話のそれはいつも通りでありながら、心弾む心地良いリズムがある気がするな。


 ◇◇◇◇◇


 朝に行く日曜日の公園はそれなりに家族連れで賑わっている。


 お花見シーズンも終わりを告げたといえ、温かくて過ごしやすい気候は子供達にとって遊び周るにはうってつけの環境だろう。


 幸いにしてカップルはまだ少ないようで、恋人達に人気のスポットである高台やベンチは空いていた。


 俺達は恋人達のデートスポットである高台からの絶景を眺めたり、ベンチでのんびりした時間を過ごすことにした。


「うわぁ♪ 綺麗な景色。子供の頃何度も来てたのに、いま見ると全然違って見えるね」


「そうだな。大人になったし、なにより親子から恋人になったのだから見え方も違うだろう」


 高台の柵に手を置いて風を楽しむ友梨佳は本当に大人っぽく見える。


「やぁ、せっかく髪セットしたのにぃ」


 一際強い風が吹いて友梨佳の髪を舞いあげる。


 悪戯な突風は友梨佳の長い髪だけでなくスカートを舞いあげて桃色のパンティがバッチリと拝めてしまった。


 もちろん他の奴には見えないようにガードすることもわすれない。


 年頃の娘の大事なパンツはそう簡単に見せていいものではないのだ。


 見て良いのは俺だけだ。


「大丈夫か友梨佳」


「うん、ねぇ……見た?」

「うん? 何をだ?」


 何が言いたいのかはすぐに分かったがすっとぼけてみせる。


「もう、その顔絶対見たでしょ!!」

「なんのことかな? ピンク色のリボンレースなんて見てないぞ」

「やっぱり見てたんじゃないのぉ~! お父さんのエッチ!」

「でも他の奴には見られてないから安心していいぞ」


「むぅ、それはありがとうだけど」


 頬を膨らませて拗ねる友梨佳とにらめっこする。


 やがて我慢できなくなったのか唐突に吹き出し、二人で笑い合った。


「ね、お父さん……」

「声を潜めてどうした?」

「ん……ッ!」


 友梨佳は周りから見えないように身体を移動させ、目を閉じて唇を差し出してくる。


 俺はそいつに応えて周りの目がこちらに向かっていない隙を突いてチュッと軽いキスを送った。


「えへへ。お外でキスされちゃった」

「見つかったら援交だと思われちゃうな」

「親子の微笑ましいコミュニケーションだと思って貰えるんじゃない?」

「世間はそんなに優しくないぞ」


「じゃあもうしてくれないの?」

「もちろんするともさ」

「やん♡」


 周りからみればダルダルに砂糖を吐き散らかしてしまいそうな激甘空間を形成した俺達は、こんなやり取りを何度も行いながら午前の時間を過ごしていった。

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