トム1 第4.2章 - 俺たちがどうやって助かったか、そして完全に!

マリは闇に意識を奪われた。


彼女は夢を見ていた——奇妙で、恐ろしい夢だ。


巨大なメガロポリス——崩壊し、暗く、かつての戦闘の混乱に染まった街。どこもかしこも廃墟、建物の残骸、火事の痕跡。空気は重く、焦げた匂いと金属の臭いで満ちていた。


マリはその幽霊都市を長い間彷徨った。


次の角を曲がると、巨大な鏡が現れた。それは境界を持たず、無限に続いているかのようだった。両側には柔らかい光が——不安で神秘的な光が——揺らめいていた。


彼女は近づいた。


映ったのは彼女じゃなかった。いや…完全には彼女じゃなかった。顔は見慣れたものだったが、そのマリには何か異質なものがあった。


突然、鏡の中の姿が喋りだした:


「……お前は…欠片じゃ…ない…お前は…鍵だ…」


声は虚無の中で反響し、この崩壊した世界の中心から響いてくるようだった。


マリには何が起こっているのか分からなかった。


「起きろ!!!」と突然、鏡の中の姿が叫んだ。


鏡がひび割れ、そして眩しい光とともに爆発した。破片は星のよう輝いた。足元の地面が消えた。


マリは目をバっと開け、息を荒く吸い込んだ。胸が激しく上下し、心臓がドクドクと鳴っていた。


「悪夢か?」とゲンリッヒの声がした。彼は平静を装おうとしていたが、マリの急な目覚めに内心では心臓発作を起こしそうだった。


「分からない…」と彼女は掠れた声で答え、意識を取り戻した。


「君にニュースがある。良いのと悪いのとだ。」


「じゃあ、良い方から。」


ゲンリッヒが笑った:


「テレポートの仕組みと原理を完全に解明したよ。」


「……で、悪い方は?」


「充電が切れた。」


「……くそっ…」とマリは小さく吐き出し、失望を抑えた。


「でも、もう一つ良いニュースがあるよ!」


彼女は首を上げ、期待を込めて彼を見た。


「その充電方法がなんとなく分かったんだ!」


マリはため息をつき、疲れた笑みを浮かべた:


「博士、それってあなたの血に流れてるんですか?」


「何が?」


「人を感情のジェットコースターに乗せること!」


二人は笑った。


ゲンリッヒは服を着て、慎重にポートを手にとった。


「ど、どこに?」とマリが目を細めて聞いた。


ゲンリッヒは笑いながら肩をすくめた:


「大丈夫だよ。俺は研究室に行く。仲間と一緒に専用電源を作るつもりだ。もちろん設計図はないから、俺のステレオタイプな『科学者』の思考に頼るしかないけどね。」


「それって、科学者がなんでもできるっていうステレオタイプのこと?」


「その通り」と彼はニヤリと笑った。


「で、私は何すればいいの?」と彼女はわざと拗ねた口調で聞いた。


「まあ、君はここに残って俺を待つんだ。」


マリは腕を組んで黙って彼を見た。


「おいおい、何だよ?俺が君を誰も君の存在を知らない場所に連れて行けってか?」


「いや、ただ…」と彼女は深く息を吸った。


「博士、お願い…気をつけて。」


ゲンリッヒはドアの前で一瞬立ち止まり、頷いた:


「分かったよ、小娘。大丈夫だ。」


彼は出て行き、ドアを閉めた。


マリは長い間そのドアを見つめ、首を振って何をしようか考え始めた。


突然、奇妙な臭いが彼女の注意を引いた。


眉をひそめ、肩を嗅いでみる…


「うわっ、くそっ…」と顔をしかめて呟いた。「風呂どこだよ…?」


少し探した後、彼女はシャワーを見つけた。


マリは棚を開け、中身を確認した。


「よし…シャンプー。」


頭を泡立て、シャワーをつけた…


すると、いきなり氷のような水が顔に直撃した。


「うわっ、冷てえええ!!!」


慌てて温度のハンドルを一目盛り動かした。水は少し温かくなったが、まだ冷たかった。


唇を噛み、もう一度強くハンドルをひねった。


今度は熱湯が肩に降り注いだ。


「あっ、くそっ!!! 熱い!!!」


何度か試した後、ようやく完璧な水温を見つけた。


温かい水流が肌を流れ、疲れと緊張を洗い流した。首を傾け、水が髪を伝うのに任せた。


その時、視線が下に落ち、つい自分を見下ろした。


引き締まった細身の体に水滴が光る。白い肌は熱い水でほんのりピンク色に染まっていた。平らな腹部には細いがしっかりした筋肉のライン。胸は1サイズ——小さめだが整っている。太ももと尻には水が細い流れを作り、その張りのある形を際立たせていた。


腕は女性的な優雅さと軍人らしい姿勢の完璧なバランス。爪は手入れされ、しっかりしていた。


マリは肩を手で撫で、緊張した筋肉を感じた。彼女の体には過去の痕跡が刻まれていた:長い訓練、生き残り、戦闘。


突然、浴室で奇妙な音がした。


マリは凍りついた。


シャワーの音がすべてを掻き消していたが、外に誰かいる気がした。


動きを止め、耳を澄ませた。心臓がゆっくりと重く時を刻む。耳に静寂が響く。風か?家の軋みか?


だが音が再びした。かすかで、誰かがカーテンの外で床に軽く触れたような音。


喉が締まり、手が肩の濡れた肌をギュッと掴んだ。瞼が震え——目を閉じてこの見えない脅威から逃げたいのに、恐怖が体を動かさなかった。


震える手でゆっくりカーテンを引いた。水が手首から滴り、浴槽に落ちて跳ねた。


シャッ…


カーテンを完全に開け、彼女は固まった。


誰もいない。


ただ湯気が空中に漂い、曇った鏡に映る彼女自身だけ。でもその姿さえも他人に感じられた。


深く息を吸い、顔を手で拭って浴槽から出た。今の出来事を考えないようにした。


キッチンは静かだった。あまりにも静かだった。


水を飲もうとグラスに手を伸ばしたが、突然指が震え、息が乱れた。胸が締め付けられ、視界が霧のように揺らぎ始めた。


「な、何…」


手が震え、足が崩れた。心臓が胸で暴れ、空気が重く、目に見えない力が彼女を押さえつけるようだった。周囲が歪み、壁が近づき、キッチンが形を失った。


パニックに襲われたが、それは始まった時と同じくらい突然に消えた。


一瞬で意識がクリアになった。


「何だったんだ…?」とマリは思った。「博士に相談しないと…」


振り返った瞬間、彼女は凍りついた。


背後、数歩先に背の高い男が立っていた。


青い深めのフード付きスウェットに身を包み、顔は隠れている。だがフードの下はただの闇じゃない——頭の代わりに虚無があった。見つめられないのに目を離せない何か。


灰黒のジーンズかパンツ、黒い靴——そのシルエットはほぼ普通だったが、一つの例外を除いて。


「やあ」と声がした。静かで深く、まるで別の世界からの遠い反響のようだった。


マリは叫び、迷わず殴りかかった。


だが拳は虚無を貫いた。


衝撃を期待したが、手は彼の体を影のように通り抜けた。抵抗も衝撃も——何もなかった。


男は微動だにしなかった。


「怖がらないで。危害は加えないよ」と彼は優しく言い、一歩近づいた。


マリは後ずさり、息が乱れた。本能が逃げろと叫ぶが、体が言うことを聞かなかった。


こいつは誰だ…何だ?


男は黙り、両手を前に出した。まるで「俺が安全だ」と言わんばかりに。


顔はないのに、マリは感じた——彼は笑っている。


「て、てめえ誰だよ?どこから湧いてきたんだ?」


「俺が誰かは重要じゃない。大事なのはお前が誰かだ、マリ。」


「何?私の名前をどこで知ったんだよ?」


彼は顔の——あるべき口の位置に——指をゆっくり当て、「シー」と静かにした。


「全部説明させてくれ。」


「み、みろよ。で、説明したらさっさと消えろよ!」


「相変わらず粗野だな」と彼は声に笑みを浮かべて言った。


マリは神経質に彼を見た。


「じゃあ、どこから始めようか?そうだな、こう言えばいいか…マリ、お前は特別だ。


普通じゃない人間なんだ。」


「何ぃ?」


「それに、お前は危険に晒されてる。俺は助けに来たんだ!」


「で、で、どうやって助けるってんだよ?」


「すぐ分かるさ!でもまず、お前と博士と一緒に研究室に行って、日本にテレポートするのをお勧めする。どこに行くかはお前が決めろ。」


「でもここからどうやって出るんだよ?周りに警備がいっぱいいるぞ!」


フードの中の闇が大きく笑ったように見えた。


「そこで俺が助けてやるよぉ。」


「はぁ?」


マリが瞬きした瞬間、男は消えた。


だが頭の中で声が響いた。


「進め!」


「何ぃ??? どういうことだよ…?」


「言葉より行動だ!進め!」


夜だった。マリは博士の家を出た。


彼女は研究室へまっすぐ向かった。まるで周囲に人がたくさんいるのが気にならないかのように。


「なんで誰も私を見ないんだ?」


「見えないものを見れるわけないだろ、当然だ。」


「……すげえ…」


「汚い言葉はやめてくれ!お願いだ。」


マリは黙って警備の前を通り過ぎた。カメラにも映らない。彼女は完全にぶったまげていた。


声が彼女を導き、どこへ行くべきか教えた。


研究室に着いた。ゲンリッヒは同僚と何か話し合い、スケッチを見せていた。


彼女は黙って彼を見た。


彼は誰かの視線を感じたのか、チラリと振り返った。


ゲンリッヒはマリをじっと見た。


「……気のせいか…」と彼は思った。


そして同僚との話を続けた。


「ブラウフレイム博士、この素敵な女性は誰ですか?」と一人の科学者が言った。


ゲンリッヒは黙った。ゆっくり右を向いた。マリを見た。目を瞬かせた。


「……」


「……」


「マリ???? 何だよ!!! ど、どうやって???」


「分からないよ、博士。声が…声が私を導いてきたんだ。」


「マリ、何だよそのクソみたいな声って?ガス漏れでもあったのか?お前大丈夫か?」


マリが何か言う前に、声が遮った。でもその声は違った。聞き覚えがあった。


カインが彼女の後ろにいた。


「オラオラオラ!博士、なぜこんな素敵な女性を俺たちから隠してたんですか?どこから来たんですか?質問が山ほどありますよ…」


マリは困惑した。以前は分からなかったその言語。


でも今は、それがとても馴染み深いものに思えた。まるでずっと知っていたかのように。


「お前ら、ノックするって習わなかったのか?」とマリが完璧なオマロフ語でアクセントなく言った。


ゲンリッヒは驚きを超えて、完全にぶったまげていた。


彼の口は馬車が馬ごと入れるくらい大きく開いた。


カインもかなり驚いていた。


「お前、その言語どこで覚えたんだ?何者だ?どこから来たんだ?」


カインが威圧的に近づいてきた。


マリは後退し、うっかり制御パネルで何かを押した。


マリは固まり、赤いインジケーターが数回点滅し、警告のオレンジに変わるのを見た。彼女が何をしたのか分からなかった——ボタンは無効に見えたが、押した後、ディスプレイに謎の記号が溢れ、空気に緊張が漂った。


死のような静寂が訪れた。誰もが黙り、博士が何が起きたか気づくまで見つめていた。


「リアクターだ!!!」とゲンリッヒが叫び、マリに飛びついた。


その瞬間、床下から火花の柱が噴き出し、冷却システムが故障した。パイプが震え、留め具が破れる音がした。エネルギー革命となるはずの実験リアクターが過負荷になり、電圧が急上昇した。


緑の閃光が部屋中の目をくらました。続いて爆音——研究室が爆発で揺れ、すべてを吹き飛ばした。


全員が後ろに弾かれた。博士はテーブルにぶつかり気絶した。カインは壁に叩きつけられた。マリもカインの方へ飛ばされ、彼にぶつかって床に落ちた。


けたたましくサイレンが鳴り響いた。


マリが最初に爆発から回復した。立ち上がろうとしたが足が言うことを聞かなかった。彼女は博士に這い寄り、揺さぶって起こそうとした。


突然、天井がひび割れ、巨大なコンクリートの塊が彼女とゲンリッヒに落ちてきた。


マリは落ちてくる塊を見て、目を閉じた。


再び闇が彼女を包んだ。


「今度こそ完全に死んだな…」と彼女の頭をよぎった。


「ノー!」と知らない声が楽しげに響いた。


「何?!」とマリは呆然とした。


「まだ早いよ!全然早い!なあ、俺がお前の人生を楽にしてやるよ。これは俺からの贈り物だ!お前が真の覚醒に踏み出す最初の一歩だ!」


「待て…何?」


男は虚空に浮かぶマリに近づき、人差し指で彼女の額に触れた。


すべてが光に包まれた。


マリは男の指から流れ込む途方もない力を感じた。そのエネルギーは痛みを伴い、頭が裂けそうだった。でも…妙に、その痛みが快感だった。


彼女は目を開けた。


落ちてくる天井が空中で止まっていた。


青緑のオーラがそれを包み、同じオーラがマリをも覆っていた。


「何だよこれ?」と彼女の頭をよぎった。


博士が目を覚まし、呆然と彼女と宙に浮かぶコンクリートを見つめた。


「マリ…これに何か説明はあるのか?」


「ないと思う」と彼女は落ち着いて答え、思うだけで巨大なコンクリートを軽々と脇に弾いた。


「でも博士ならあるだろ!」とカインの声がした。


彼はすでに回復し、こちらへ向かってきていた。


「博士、まさか俺たちを裏切るつもりか?こんな怪物いつまで隠してたんだ?」と彼の声は毒に満ちていた。「こいつは俺が没収する。」


カインが手を伸ばし、マリに触れようとした。


だが彼女の目が黄色く輝いた。


動かずとも、カインが突然空中に持ち上げられた。


「ビビって消えろ。」


その瞬間、カインは壁を突き破るほどの力で吹き飛び、外にいる部下の間に落ちた。


「マリ?!」と博士が彼女の肩を揺らした。


「大丈夫…」と彼女は考え込み、急に言った:「博士、ポートはどこ?」


「ロッカーの中だ。」


「あそこだろ、多分?」


「そうだが、どうやって…」


マリは最後まで聞かず、ポートを取り出し、じっくり見た。


「まるでずっとその仕組みを知ってたみたい…自分で作ったみたいに。」


彼女の頭に明確な計画が浮かんだ。


思うだけで必要な工具を見つけ、電源ユニットを組み始めた。


完成。


「博士…」とマリは突然得た力が消え始めているのを感じた。


博士は察し、すぐに彼女を支えた。


マリはポートを手に取り、見事に回した。装置が光り、内側で回転し始めた。


彼女は博士の目を見た。博士も彼女を見た。


再び起き上がったカインが突然ピストルを抜き、狙いを定めた。


発砲。


弾丸は時速450mで飛んだ。


だがテレポートの方が早かった。


弾丸はキィンと壁に突き刺さった。


カインは怒りに叫び、ピストルを地面に叩きつけた。


「で、俺たちはどこに飛んでくんだ?」と博士は思った。彼にとってこの感覚は初めてだった:無重力と、狂ったような飛行速度が伴う感覚だ。


「家だよ、博士。家に帰るんだ。」


ポータルが開いた。


マリは落ち着いて出てきた。


一方、博士は床にキスしそうになった。


マリがすぐさま彼を支え、二人は互いに掴まりながら周りを見回した。


目の前では見慣れた場面が繰り広げられていた:


クジョ(笑いながら):


「だよな…昔は良かった。」


ステファン(からかうように):


「お前、あの頃はそんなデブじゃなかったしな。」


クジョ(笑顔で):


「おい、俺、ちゃんと痩せたんだぞ!」


マリは、何も気づかずに話してる友達の会話に割って入ることにした:


「そうそう、でも頭は全然賢くなってねえな、このバカ野郎。」


男たちはゆっくりと振り返った。


「マ、マリ?!」


「そのマリだよ、馬鹿ども!」


博士が何か言おうとしたが…突然、彼は床にゲロをぶちまけた。


ちょうどコーヒーを注いでいたリンコは、口をあんぐり開けてその光景を眺めていた。


彼女が見つめる中、コーヒーが床に溢れていく…

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