第1巻 第4章 - 私たちがどうやって助かったかについて

(著者からの小さな注釈:この章では、マリーとブラウフレイム博士がどうやって助かったかを語ります。)


場面:ブラウフレイム博士の家


マリーが少し足を引きずりながら博士に近づく。


マリー:


「ブラウフレイム博士、ちょっとこれ見てくれませんか、ポータルです。どうやって動くのか、博士ならわかるんじゃないですか?」


ハインリヒ(軽い苛立ちを込めて):


「マリー、私が科学者だからって何でも知ってるわけじゃないんだ。この仕組みなんてさっぱりわからない。解明するのに何週間もかかるよ。」


(一瞬の間。)


「それに、その間、どうやって君を隠すか考えないといけない。」


マリーは彼の肩に手を置き、いたずらっぽく笑って目をじっと見つめる。


マリー(言葉をわざと伸ばして遊ぶように):


「博士ブラウフレイム…あなたって、科・学・者でしょう?何だってできるじゃないですかぁ!」


反論を待たず、彼女は黙って装置を彼の手に押し付け、狡猾な笑みを浮かべ続ける。


ハインリヒは無言でポータルを見つめ、次にマリーを見る。またポータルに戻して、慎重に触り始め、くるくると回してみる。


突然、装置が「カチッ」と音を立て、短い電子音が鳴る:


「ピッ!」


ポータルが起動する。


ハインリヒはゆっくりとマリーに目を移す。彼女は言葉を発せず、ただ表情だけで「ほら、言ったでしょ!」と言わんばかりに見つめ返す。


博士は眉をひそめ、まるで自分の後頭部を見ようとするかのように目をぐるっと回し、ぶつぶつ呟きながらスリッパを擦って別の部屋へ去っていく。


ハインリヒ:


「くそっ、誰だよこんなクソみたいなステレオタイプを考えたのは…」


マリーは口を手で覆い、目を細めて静かに笑う。


後ほど。


博士が装置をいじっている間、マリーは部屋を見回すことにする。彼女はハインリヒの椅子に移り、 здоровую ногу(健康な足)に体重をかけて座り、机の上の紙を調べ始める。


ノートには解剖学のスケッチが描かれている:骨格、筋肉、静脈、病気のメモ。そばには奇妙な渦の写真が置かれている。


「これが博士の言ってたもの?」とマリーは写真を眺めながら思う。小さな渦もあれば、底なしのように巨大なものもある。


だが、マリーの目を引いたのはそれではない。机の隅に、古い木製フレームに入った写真がある。そこには幸せそうな家族が写っている:堂々とした男性、白いドレスを着た若い女性、そして8~9歳くらいの男の子と女の子の二人。


「これ…博士の家族?」とマリーは驚きながら思う。


突然、後ろからハインリヒの声がして、彼女はビクッと跳ねる。


ハインリヒ:


「私の家族だよ。」


「いつ近づいてきたの?足音も聞こえなかった…私、夢中になりすぎてた?」とマリーは呆然と思う。


マリー(自信なさげに):


「あ、うん…」


ハインリヒはベッドの端に腰掛け、床を見つめたまま話し始める。


ハインリヒ:


「海外へのクルーズに行くつもりだったんだ。当時は珍しいことだった。楽しく過ごしてたよ。水の滑り台に乗ったり、映画を見たり…」


(少し間を置く。)


「それから…爆発音が聞こえた。」


マリーは息を止めて聞き入る。


ハインリヒ(一点を見つめたまま続ける):


「船が海賊に襲われたんだ。人々はパニックになって走り回ったけど、逃げ場なんてなかった。救命ボートは足りなくてね。まるでネズミ捕りにかかったネズミのようだった。海賊たちは空に発砲して、みんなを一か所に集めようとしてた…」


(一瞬の間。)


「でもその時、誰も予想してなかったことが起きた。海の中から…何かが現れた。何だったのかわからない。巨大で、真っ黒で。目は血のように赤く、瞳は深淵みたいに黒かった。その生き物…俺たちを見ていた。」


ハインリヒの声が小さくなり、ほぼ囁きになる。


ハインリヒ:


「誰も動けなかった。海賊も、乗客も、船員も。全員が固まった。それは…恐怖じゃない。何か古いものだった。原始的な恐怖だ。」


(彼は拳を強く握りしめる。)


「その存在は俺たちの法も命もどうでもよかった。そいつにはただ一つの法則しかなかった——自然の法則。そしてそれは殺すことを命じてた。」


博士は深く息を吸う。


ハインリヒ:


「水の中から巨大な触手が飛び出してきた。それが船を…人ごと潰した。」


マリーは息を詰まらせ、涙を堪える。


ハインリヒ(ほぼ囁きで):


「俺たちは船の端にいた。燃料が爆発して燃え上がった衝撃波で海に投げ出された。それから——闇だ。」


一時停止。


ハインリヒ:


「波の音と、俺の上を這うカニで目が覚めた。


俺は一人だった。


この世に一人きりだ。


命より愛した家族がもういないって感じた。


親の心は決して間違えない。」


マリーは博士の話を聞きながらヒステリーを抑えきれず、美しい顔に涙が溢れる。


ハインリヒ:


「感情の嵐に飲み込まれた。


俺は泣き叫び、自分とこの世界を呪った。


何をすればいいかわからなくて、自殺しようと思った。


でも気付いたんだ。家族のために、俺は生きなきゃいけないって。」


「少しして、自分がどこかの島にいることがわかった。


奥へ進むと、機械や箱、銃を持った人間がたくさんいた。


引き返そうとしたら、顔に自動小銃の銃口を突きつけられた。


それで『オマール』っていう組織の奴隷になったんだ。」


「ここは彼らが占領した5番目の島だ。」


マリー(困惑と驚きで):


「待って、島って一つじゃないの?」


ハインリヒ:


「ああ。メインの島は9つあって、他に秘密の10番目の島がある。


10個だよ、オマール(ロブスター)の足の数と同じさ。


この組織は不死への道を探してる。だから『オマール』って名乗ってる。ロブスターは特別な酵素を作り出してテロメアを修復するから、ほとんど永遠に生きられるんだ。


俺は10番目以外、どの島にも行ったことがある。」


マリー:


「じゃあ、ここって爆薬だらけの実験場ってこと?」


ハインリヒ:


「その通りだ。」


長い沈黙。


マリー(囁くように):


「ごめんなさい…私のせいでこんなこと思い出させちゃって。」


ハインリヒは無言でティッシュを差し出し、温かい笑みを浮かべて言う。


ハインリヒ:


「大丈夫だよ、子猫ちゃん。もうとっくに受け入れてる。人生は終わりじゃない…始まりなんだ。」


二人は互いに微笑む。


突然、ドアを強く叩く音が響く。


マリーにはわからない言語で、荒々しい声が脅すように叫ぶ。


ハインリヒの顔が青ざめ、声が震える。


ハインリヒ:


「お、おお…やつらが来た…」


続く。

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