第3話 教員試験合格

 俺は思う。普通に見ても妹が可愛いという事実に。だがシスコンというわけではない。

 ……………なんか、そんなラノベ昔あったな。おれいもだっけ? まあそれより、俺が妹のことをそういう風に思う理由は単純明快だ。

 外見がまさしく美少女で、妹の名前を辞書で引けば、美しい花の名が比喩として記されているだろう。

 それを客観的に述べているだけなので、別に不思議なことではないだろう。

 それに、自分には他に好きな人もいるし。


 晴れて教員試験に合格し、その吉報を妹、相沢静にしらせた。彼女は喜んでくれた。

「良かったじゃん。じゃあ、今夜どこかでお祝いしようよ」

「そうだな。楽しみに待っているよ」

 じゃあ、と通話を切る。俺は大学の校内から出て、十二月の寒々しい気温を身体に受ける。手がかじかんで痛いのでコートのポケットに突っ込む。

 大学二回生の時に相沢と交際を始めた。きっかけは――身体の相性が良いとかだったはず。性行為の際に甘い喘ぎ声を漏らし、「こんなに昂ったの初めて…………」と上目遣いに見つめてきた。

 流れでそういうことを行うことが多くなってきて、相沢が「妊娠とか、そういうことになるとさ。出来ちゃった婚になるじゃん? それは流石にまずいよ」と筋の通った話をしてきたので、素直に婚約することにした。

 

 夕方。新宿駅で電車から降りるとクリスマスツリーのライトアップが飾られていた。

「あれ? お兄ちゃん?」

 足から背中にかけて勢いよく電流が走ったように、緊張を感じた。

「なにしてんの? お一人様でこんなカップルの聖地にいたらバカにされちゃうよ?」


「バカにされて結構だ。というか、俺よりもお前だ。一人でなにやってる? 友達でも待ってんのか?」

 李菜は腰を屈めてこちらを窺ってくる。

「まあ、そんなところだったんだけど………別にいいや。お兄ちゃん、一緒に遊ぼうよ」

 俺は頬を掻いて動揺を悟られまいとした。

「実は俺、恋人がいるんだよ。だから無理。一緒に遊べない」

 妹は眉間を指でつまんで唸っている。

「高貴くーん。お待たせ、って、その人だれ? まさか妹さん?」


 すると李菜がこの場に現れた相沢を見据えた。じっくり品定めをしているかのようで。

「ねえ、一緒に遊びませんか?」

 李奈が不気味なほど清々しい笑みを浮かべながらそう言った。

「ん? 遊ぶってどういうこと?」

 俺は二人の微妙に嚙み合っていない会話を正すために、言葉を発することにした。

「こいつ、君の言う通り俺の妹だ。で、極度のブラコン。でも慕っている兄の恋人でも、一緒に遊んでほしいそうだ……多分な」


「遊ぶもなにも今日は……あっ、もしかして一緒にお祝いしたいんだ。なら連いてきな二人とも。帝国ホテルのレストランの予約を取っているから」

 俺は相沢に耳打ちをした。「そんな高級レストランで祝ってもらうなんて、謙遜してしまうよ」と。そしたら満天の笑顔を見せてきて、「大丈夫だから。めでたいことじゃない」と安心させてくれた。

「むう。いちゃいちゃして……」

 と、相沢と俺の後ろで妹が私怨を募らせているとは、俺は露知らなかった。


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