第3話
王都を覆っていた暗雲が晴れ、明るい日差しが二人を照らす。
まるで、強敵を倒した二人を讃えるスポットライトのようだ。
……そんな大仕事をしたというのに、二人は特に勝ち誇る様子も見せず、平然と王都へと帰り始めた。
少し呆然としていた私は、二人が私のために立ち止まっていることに気づき、慌てて後ろを追いかけた。
王都の門をくぐった私たちを待っていたのは、王都の民からの歓声だった。
クリス様とラピス様だわ!と二人のファンからの黄色い声が鳴り止まない。
クリスは、
「いや、私達だけの手柄じゃない。真に称えられるべきは、先に戦ってくれた戦士達だ。彼女らのおかげで、随分魔王も弱っていたからな」
本当は全然魔王は弱ってなかったのに、角を立てないためか、そんなことを言うクリス。
謙虚な態度と、同時に見せた笑顔にクリスのファンからの悲鳴が一層大きくなる。
「……ん、クリスの言う通り。先に戦ってくれた人たちのおかげ」
ラピスもそれに乗っかって、普段は無表情で見せない笑みを浮かべるものだから、ますます歓声は大きくなっていく。
そんな二人を見て、私は心底、不可視の魔法をかけられていてよかったと思っていた。
……私だけ何にもしてないのに、そのくせ二人の後ろにいたら悪目立ちしまくりだもんね、居心地すっごく悪そう。
その内、王城からの使者が来て、『陛下が是非、お会いしたいとのこと』と伝えに来た。
クリスとラピスは、慣れた顔でそれに頷き、使者に従って後をついていく。
……私、どうしたらいいんだろう。
お城までついて行く、のも変だし、家に帰ろうかな。
……あ、それよりまず、どこかで魔法を解いてもらわないといけない。見えないままだと色々不便だし。
…………でもそしたら、ラピスに声、かけないといけないよね……。
ラピスに目をやる。
王城へ向かうラピス(とクリス)の周りに人が集っていて、パレードみたいだった。二人も周りに笑顔を見せたりしてるし。
うぅ……めちゃくちゃ話しかけづらい。でも、早く言わないと、お城に着いちゃう。
……人が集まっているのを抜きにしても、二人とはあまり話したくないんだけど……仕方ない。
私は、意を決してラピスに話しかけた。
「ね、ねえちょっと」
私がそう声をかけた瞬間、二人の顔から抜け落ちるみたいに笑みが消えた。
……ああ、こうなると分かってたから、話すのが嫌だったんだ。
「……なんだ」
「……なに」
二人が小声で同時に私に言った。
昔とは違う、無愛想な声色で。
「い、いや、その、ま、魔法解いてくれないかなって……ほら、帰っても透明だと困るし……」
「…………ん、家に帰ったら解けるようにしてあるから、そのまま帰ったらいい。……話はそれだけ?」
『…………うん』と私が答えると、二人がため息をついた。
どういうため息なのかはわからない。
でも、ため息を吐かれた、その事実がショックで。
私は胸が苦しくなって、二人から離れると、そのまま家へと帰った。
私が、家(パーティーの事務所も兼ねてて、メンバー全員が住んでいる)に戻って、三時間くらい経ちすっかり日が暮れた頃にラピスが帰ってきた。
手にはなにやら、フラスコのような形をした瓶が一つと、巻かれた長い紙が握られていた。
ラピスは私にゆっくり近づいて、
「……ん、今回の報酬の話だけど」
……報酬。
普通に考えれば、なんの貢献もしていない私が受け取る筋合いなんてない。でも、どういうつもりなのか、二人は絶対に、村を出る時に決めたルールに従って、三分の一を私に渡すんだ。
多分、今回も。
「パーティーのルール通り、報酬のお金は三分の一、ソフィアに振り込んでおいた。……それから、もう一つ、これ」
ラピスが手に持っていた長い紙を開き、私に見せた。そこには色んな物の名前が並んでいた。
「王城の宝物庫のリスト。このリストの中から二つ、報酬として選んでいいって言われて、これは三等分できない、だから」
……だから、私の分はないってことなのかな?
そんな私の予想とは反対に、ラピスは手に持った瓶を掲げて言った。
「これを私とクリスの分としてもらった。残りの一つは、ソフィアのもの。じゃあね」
「え、え!?あの、ちょっと!」
話は終わりとばかりに去ろうとするラピスを、私は慌てて呼び止める。
さ、さっきはまさか自分に渡されると思ってなかったから流したけど、王城の宝物庫だよ?
値段もつけられないような貴重なモノもいっぱいのはずだ。
何もしてない私が、そんなもの受け取れるわけ……お金だってそうだし……。
そう思って呼び止めたんだけど……
「……なに。何か不満?」
振り返ったラピスの顔は、いつもみたいに無表情だったけど、早く話を終わらせたいという気持ちが伝わってきて……。
値段がつけられないほどの物を手放すことになっても私と話すのが嫌なのか、と、私は俯いてしまった。
「…………でも……」
「でも、なんだ?」
いつのまにか帰って来ていたクリスが私の言葉を引き継いだ。
二人が黙って、私を見ている。
ジッと、どこか警戒しているみたいに。
ーーふと、昔の二人を思い出す。
私のことを慕ってくれた、あの日の二人を。
二人とも、私にこんな風な目を向けなかった。
「…………ごめん、なんでもない」
私はそれだけ言うと、逃げるようにして二階の自室へ走った。
ベッドの上で、布団にくるまりながら、私は考えていた。
……昔はこうじゃなかった。
冒険者になりたての頃は、二人とも強くなくてーー
私の後ろに隠れるみたいで、それでもなんとかみんなで力を合わせて依頼をこなしていた。
強さだけじゃなく、態度もそうで、私がちょっと無茶をしただけで、『無事でよかった』って、泣いてくっついてきたっけ。
当時はあんまりお金もなかったけれど、楽しかった。
……全部変わったのは、一年が過ぎた頃だった。
あの日、私のせいで……二人は変わって……私のことを嫌いになって、避けるようになったんだ。
目に見えて強くなり始めたのも、その時からで、それ以来ずっと、二人から距離を感じる。
こんなに報酬が貰えたって、二人を失うなら……、なんの意味もない。
しばらく感傷に浸っていると、隣の部屋ーーラピスの部屋だーーに、人の気配を感じた。
それも、二人分。
クリスとラピスだ。
少しの間、内容までは分からないけど、二人が話し合っている声が聞こえて、それから……、二人の、さっきまでとは違う艶やかな声が聞こえてきた。
…………別に、二人がそういう関係なのはいいんだけど……、なんていうか……何よりも、一番辛いのは、二人に仲間はずれにされてるってことが強く再認識されることだ。
二人が愛を確かめ合っている間、こうやって私はひとりぼっちで、……それも全部、自分のせいで。
私はため息をつき……、耳を手で塞ぎ、目を瞑った。
二人の声が聞こえないように……、これ以上自分が惨めにならないように、と。
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