【GL】幼馴染パーティーで孤立していた私が、ヤンデレな王子様系剣士とロリっ娘魔女に溺愛される話

@fujinobu

第1話

「あー、見つかっちゃったか……」


 そう言って、私、ソフィアは誤魔化そうと目の前の女の子に曖昧に笑いかけた。


 この時私は12歳。時間は深夜。


 小さい頃からの夢だった冒険者になるために王都へ出ようと故郷の村をこっそり抜け出している最中だった。

 だけど、間が悪く、偶然外に出ていた女の子ーークリスに見つかってしまったのだった。


「ごめんね。私、どうしても王都で冒険者になりたいの」


 諭すようにクリスに言った。


 当時の私はガキ大将みたいな感じで、慕ってくれる子が何人かいて、クリスもその一人だった。

 特にクリスは私にべったりだったから、私の言葉に、元々泣き虫なこともあり、泣きそうになっていた。


 罪悪感を覚えつつも、私は続けた。


「だから、ほんとにごめんね?そろそろ行かないと誰かに見つかっちゃうから……」


 じゃあ、と村を出ようとした私の袖を掴んで、クリスが言った。


 「…………わたしも行く」


 「え?」


 「わたしも、王都に連れて行って」


 思いがけない言葉に戸惑って立ち止まってしまう。


 クリスは、顔はカッコよくて勇敢そうに見えるけど、ほんとは、よく村の子にからかわれて泣いているくらい気弱で、こないだも男みたいな顔とか言われて泣いていた、そんな子だったから、こんな大胆なことを言うなんて思わなかった。


 私は驚いてクリスの顔を見る。


 クリスの目は確かに涙で滲んでいたけれど、その顔には確固たる意志が宿っていた。


 だ、だけど……、


 「く、クリス、悪いけどそれは……」


 知らない場所に行くんだ。自分のことで手一杯で、クリスの世話を焼いている余裕なんてない。


 「嫌だ、絶対付いて行くもん」


 しゃくり上げながら、クリスは渋る私に脅すように、


 「連れて行かないって言うなら、大声で騒いでみんなを起こ……」


「わ、わかった、わかったよ!連れて行くから」


 クリスの声は涙声で、すでに大声に近かったので焦って私は遮る。


 あ、危ない……、みんな起きちゃうところだったよ……。


 うー…………仕方ないか。

 私としてもいなくなった後クリスが大丈夫かちょっと気に掛かってはいたし。


 …………本音を言うと、クリスの他にあともう一人私にすごく懐いていて、心配な子もいるけど……、流石に二人も連れて行くことはできない。


 さっさと村を出ないと……。


 「……ソフィア……?」


 嘘でしょ?どうしてまた……。

 振り返ると案の定、女の子が一人……それも丁度私が心配していた子、ラピスが立っていた。


 ……なんでこう、今日に限ってクリスもラピスも、夜中に外にいるんだろう。


 「どこ、行くの……?」


 ラピスが同い年にしては小さくて幼い体を震わせながら言った。

 ……ラピスも連れて行くわけにはいかないし……、嘘をつくしか、ないか。


 「な、なんでもないよ、ちょっと散歩してるだけだよ」


 「そう…………」


 言いつつもラピスの視線は、しっかりと私が背負っている大きなカバンに注がれていた。


 ……流石に無理があったか。


 普段から王都に行きたいと私が言っていたから、確実にラピスは分かっていると思う。


 ……なのに……、


「そう……、ん……、分かった。ソフィアは散歩してるだけ。……私……帰るね……」


 ーーラピスは無口で、いつも誰かのために一人で泣いている子だった。同情したり、遠慮して我慢したり……その度に、いつも私が慰めていたんだけど、今回は私が泣かせているわけで……。


 ……罪悪感で胸がモヤモヤする。

 

 このまま村にラピスを置き去りにしてしまえば、この先ずっと後悔するような、そんな気がしてーー。


 …………あー、もう!


 こうなったら、一人も二人も一緒だ!


 『待って、ラピス』と、私はラピスを呼び止めた。


 「……散歩っていうのは嘘、ほんとは王都に行くの、冒険者になるために」


「………う、うん……。ソフィアずっと言ってた……」


 思った通り気づいていたみたいだ。


 「ラピスも一緒に行こうよ」


 「いいの……?」


 ラピスが目を丸くした。


 「うん。私も初めての場所に行くわけだし、心細かったからさ。ラピスもついてきてくれると嬉しいな」


 「…………」


 「だめ、かな」


 思ってもみなかったのかぼーっとしていたラピスは、慌てて首を横に振った。

 そして、普段無表情なラピスには珍しく、興奮で頬を赤に染めた。


 「ダメなわけ、ない!……でも私、ソフィアのめいわ……」


 「じゃあ決まり!ほら、誰かに見つかっちゃう前に出よう?」


 半ば強引に手を握ってかけ出すと、ラピスはさっきよりも頬を赤くして、なぜか、泣きそうに顔を歪めた。


 「……ありがとう……ソフィア」





 

 村を出て、暗い森の中を歩きながら、私は考えていた。


  ……勢いで連れて行くことにしちゃったけど……二人の面倒を見切れるのかな?


 心配になって二人を見ると、不安そうにそれぞれ、私の左右の腕にくっついていた。

 暗闇が怖いっていうのもあるだろうけど、なんだかそれよりも、私がいなくなるのを怖がっているみたいな……、

 それぐらい、私がいなくなろうとしてたのが、ショックだったのかな。


 ……ラピスに言った言葉は、あながち全くの嘘ってわけじゃない。


 冒険者になるのが夢だったとはいえ、一人になるのはずっと寂しいなって思っていたし……。


 それに、私だって、二人のことが……。


 どうにか、二人を安心させてあげられないかな?


 ……そうだ。


 「……ね、ちょっといい?」


 立ち止まると、私はリュックの中から紙とペンを取り出した。

 二人は私から離れて……、いや、不安そうに服の端っこ持っていた。


 「これから、私たちパーティーを組むことになるでしょ?だから、パーティーのルールを決めておきたいな、って思って」


「「ルール……?」」


 繰り返す二人に、私は頷く。


 「うん。本で読んだんだけどね、有名な冒険者パーティーはみんな、絶対に守らなきゃいけない大きなルールを三つ決めてるんだって。それを今決めるね」


 月明かりを頼りに、ペンを走らせる。


 「一つ目は『リーダーはソフィアわたし』。二つ目は、……、えっと……お金のことで揉めたくないし……、『報酬は三等分にすること』。いい?」


「え、でも、お金はソフィアに全部……」


「ダメダメ。お金のことはちゃんとしないと、それで解散しちゃったパーティーもいるって聞いたことあるし。……それに私、やりくり下手だからさ」


 そうなんとか納得させて、紙に二つのルールを書いた。

 この二つはそれっぽくするために書いただけでそんなに重要じゃない。……本命は次だ。


 「それから、何よりも大事な三つ目。絶対これだけは守らなくちゃいけない。……いい?」


 勿体ぶって言うと、二人が緊張した面持ちで頷いた。


 「……『パーティーみんな、仲良しでずっと一緒にいること』……守れる?」


 


「「……うん!」」


 二人が同時に、声を上げた。


 なんかちょっとクサいことしちゃったかな、と若干恥ずかしいけれど、二人が喜んでるみたいだし、まあいいか。


 この後二人はよっぽど嬉しかったのか、同じ紙を欲しいと言い出したので新しく二枚書いてあげた。


 そして三枚ともに、三人全員が署名する。

 二人は、宝物のように掲げて目を輝かせている。


 私は、そんな二人を見ながら自然に笑顔になっていた。

  

 きっと、大変だろうけど、それでも。二人がいてくれるなら……。

 なんて、考えていたこの時の私は想像すらしていなかった。


 …………今は泣き虫の二人にはそれぞれ、クリスには剣の、ラピスには魔法の才能が隠されていたということ。

 そう遠くない未来、二人はそれぞれの分野で一番になって、本当のお荷物は二人じゃなくて私で。

 ーーそしてなにより、これだけ私を好きでいてくれた二人に、村を出て一年後、私が起こしたある事件をきっかけに避けられるようになるなんて。

 本当に、思いもしなかったんだ。

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