第十六話 西の外れにある何でも屋
「ようレベル1、ぶち殺されもせず、まーだ生きてたのかーっ!」
何だとー!!うるせーよ。
相変わらず態度わりーなー、ここの店主は。
客にもっと愛想良くしろよ。
街の西の外れにある何でも屋、店主はガラ悪く、口も悪く、顔も悪くて性格も悪い。ついでに店も汚い。
一見すると良いところがないように思えるが腕はかなり良く、店内には相当レベルの性能を秘めているアイテムが所狭しと並んでいた。
棚に並んでいる全ての商品からはとてつもないレベルの魔法力を感じることができるのだが、店主がこんなものだから誰も寄りつこうとしない。
接客が苦手なら他の人に任せて自分は商品造りに専念すればいいと思うのだが、多分バカだから自分が悪いから店が流行っていないなんて思いもしていないんだと思う。
エミリア様の巻き髪を作るためのヘアーアイロンに模した魔法石もここで作ってもらったのだが、相変わらずの不評ぶりである。
ヘアーアイロンは今や屋敷内の女性達に引っ張りだこだ。大量生産すれば大儲けできるっていうのに何とも勿体無い。
「汗では落ちないのにクレンジング剤で洗うと簡単に落ちる粉できました?」
「だから、そんなの簡単にできるかっつーのっ!!」
まあそれはそうだろう。
顔は任侠系、声はダミ声なので店主に怒鳴られてしまったら普通の人は逃げ出してしまうのだろうが、反応が面白いので僕はついつい揶揄いたくなってしまう。
僕もレベル1ヤローとか揶揄われているんだから、何を言ったとしても文句言われる筋合いはない。それに客なんだし。
「何でですか?粉に魔法をバーって送り込んで、バーって調整すればいいだけじゃないですか。すっとろいなー」
「すっとろいだーっ!?オメーはホント無茶苦茶なことサラッと言ってくるな。それが難しいんだろーが!」
顔を真っ赤にしていきりたっている姿がサルそっくりだ。面白いからもっとからかっちゃおーっと♪
「リップはできました?」
「だから、出来てねーよっ!」
「はぁー?使えないなー!」
「何だとー!頑張っている人に向かって使えないだーっ!テメーはどんな育て方されたんだよ!労いの言葉ひとつかけられないのかーっ!どうやったらそんな捻じ曲がった性格になるんだよ!」
「それはお互い様でしょ。あーぁ、腕がいいって聞いたからここに来たのにこの程度の男だったのかー、残念」
「はー!テメー、俺様の腕を疑ってんのかー?材料が足らねーから進んでねーだけだよ」
「何でですか?」
「失敗続きで無くなっちまったんだよ!」
「失敗して材料無くすなんて、マジでダサいですね」
「オメーは絶対いい死に方できねーぞ」
「じゃあ僕がとって来ますよ。魔法石の原石探してくればいいんですよね?」
「おおマジか!それは助かる」
「頼んだ手前仕方ないです。でも値引きはさせてもらいますからね」
「お前は本当に18歳か?ホント小狡いな。じゃあ、ついでに薬草と毒消し草10個ずつとイモリとカエルも10匹ずつ頼むわ」
「はー!?何でですか?」
「森に行くんだろ?原石のあるとこまでの道すがらにいっぱいあるだろ。ついでによろしく」
「そんなの自分で行ってくださいよ」
「俺は店番忙しいんだよ」
何が店番だよ、誰もいねーじゃねーかよ。
店を出た僕は出入り口の前に石を置いてやった。
ふふふ、この石に足の小指でもぶつけて地獄を見るがいい。秘技、足の小指ぶつけて苦しんでしまえの刑じゃ。
◇ ◆
「よう良太、どこ行くんだよ?」
正門までくるといきなり誰かに声を掛けられたので『ビクッ』となってしまった。振り向くとそこには兵士長の姿があった。
兵士長はこの領内で唯一レオン様と互角に戦えるお方だ。よくレオン様の稽古相手になってくれているので僕も顔見知りになっていた。
「えっ?兵士長ここで何しているんですか?」
「何しているって門番してるに決まってんだろ」
「えっ?兵士長も門番するの?」
「当たり前だろ、俺がしなかったら示しがつかなくなるだろ」
そうなんだ。王都の兵士長だったら絶対そんなことはないのだろうが、街の兵士長クラスはそんなものなのだろうか。
それともモンスターベアーとの戦いで、多数の兵士が亡くなってしまったので人員不足になっているのだろうか。
「よう、それでどこ行くんだよ?」
「え?ちょっと森に魔法石の原石を取りに」
「お前レベル1だろうが、一人で大丈夫なのかよ?」
レベル1レベル1って皆んなうるさいなー。レベル1で攻撃力1で魔法力も1だけど、他のステータスは上がってるから大丈夫なんだよ。特に探査、探知、鑑定スキルは100を超えているんだからね。
女神様ありがとう。僕にもチートスキル用意してくれていたのね。感謝、感謝。
この能力のお陰でレオン様のピンチにもいち早く気づくことが出来たし、レオン様でも気づかなかった『フエ』での攻撃にも気づけていたし、火縄銃の性能にも気づけた。僕は優秀なんですからね。
領内随一の探知スキルを使ってモンスターが近寄ってくる前に逃げる。最強じゃん。
「俺が付いて行ってやるよ。もう少しで交代だからちょっと待っててくれよ」
えっ?わざわざ兵士長がついて来てくれるの?
何それラッキー!
「いいんですか?」
「お前はレオン様のお気に入りだからな、何かあったら大変だし」
えーっ!僕って、レオン様のお気に入りなんですかーっ!
そうだったんだー!なんだよレオン様も人が悪いな〜、直接言ってくれればいいのに。
帰ったらおかえりなさいのチューでもして貰おうかな♪
「そうだ!レオン様の剣術どうですか?だいぶ片刃になれたと思うんですけど?」
「慣れたも何もねーよ。レオン様があの日本刀っての持ったら最強よ。何本剣折られたことか、それにあの居合斬りっての?ありゃー反則だよ!あんなの止められる奴なんていねーよ」
そうなんだ!さすがレオン様!
ついでにずっと思っていた疑問をぶつけてみることにした。
「レオン様そんなに強くなられたのでは、モンスター討伐の旅に出てしまうんですかね?」
「旅かー?レオン様が旅に行くって言ったらエミリア様も絶対付いていくだろうから、エミリア様が18になるまでは行かないんじゃねーのか?」
なるほど!それはありうる。
「エミリア様は移動魔法が使えるからな、屋敷に残っていろって言われても聞かないだろうし」
なるほど!だから移動魔法なんていう特殊な魔法習得していたのか、あのブラコン女め!
「それに王都にはなんかスゲーのがいっぱいいるらしいから、わざわざレオン様が行かなくてもいいんじゃねーの?」
!?
やっぱり僕以外にも異世界から呼ばれているヤツいるんだ!
いいな〜、そいつ等はきっと無敵モードの状態でいて、周りからチヤホヤされて生きているんだろーなー。
「兵士長交代の時間です」
「おお、時間か!」
「良太、着替えてくるからもうちょっと待っててくれや」
「はい」
いつも周りにビクビクしながら森の中を探索していたのだが、今日は兵士長が一緒だなんて心強い。
よーし、レオン様の分も取ってくるぞー。
そして褒めてもらうぞー。
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